恩犬ゴン

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 実家に帰ると必ず立ち寄る場所がある。真夏の猛暑日でも、真冬の凍える日でも、ぼくはその場所を必ず訪れる。  実家からすぐ近くのゾウ公園に今日も立ち寄っていた。むかし、ゾウのすべり台があったことでゾウ公園と呼ばれていた。今は撤去されてしまっていて、おそらく近所の子供たちはゾウ公園とは呼んでいないだろう。  ゾウ公園は外周を桜が覆っていて春はとても綺麗だ。まだ二月末だから芽も膨らんでいない。  公園の入口から七本目の桜のふもとでしゃがみこんだ。根っこが土を盛り上げているだけで、なんてことないただの桜のふもとだ。  ぼくは手を合わせて幹をぽんと叩いた。 「帰ってきたよ」  と、つぶやいた。  ふと見上げると、つぼみがすこし膨らんでいる。ほかの桜にそんな予兆はない。  きっとゴンが桜を早く見たいんだろうな。ぼくは桜のふもとに手を添え、そう思った。 「パパー、行くよー」  後ろから息子に呼ばれ、ぼくは踵を返した。
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