恩犬ゴン

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 ──今年の冬は寒い。  コートとマフラーで身を固めながら、ゾウ公園をあとにした。振り向いて七本目の桜を見ると、枝が風に揺られてうなづいているように見えた。 「ほんとに実家で迷惑にならないのかしら?」  妻の友里が心配そうにぼくに尋ねた。 「うん。大丈夫。逆に喜んでくれると思う」  前を進む息子の(れん)が、つかむリードに引っ張られている。 「ばあばの家もうすぐ!」 「うん。そこ、車来るから気をつけて!」    扉を開けると、厚着した母さんが満面の笑みで蓮を迎えた。白髪が目立つものの表情は昔より和らいだように思う。 「ばあば、ジャーーーン!」  蓮は背中に隠していたなにかを見せるようにくるりと母さんへ背中を見せた。背中には子犬がいた。 「まあ、ワンちゃん! 蓮くんワンちゃんと一緒に来たのね?」 「うん、かわいいでしょー」 「あらぁ、蓮くんもワンちゃんもかわいいこと」 「ばあば、抱っこしていいよー」  蓮が母さんへ子犬を渡した。子犬はすこし戸惑ったが、母さんの胸に収まり、くぅんと甘えるように鳴いた。 「ゴンって言うんだ」  ぼくがそう言うと、母さんはゴンを撫でながら「そうね」と、嬉しそうに泣いた。 了
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