恩犬ゴン

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「うわ、押本。どうしたんだよ、それ」  下校していた佐々木くんたちがぼくを見つけて駆け寄ってきた。 「押本めちゃくちゃ泣いてる。犬、血すごい。死んでるのか?」 「……うん。車にひかれて……た……うん」  みんなが声を揃えて「ひでえ」と沈痛な顔をしてくれた。 「押本の犬か?」  首を振った。首を振ってから、また首を縦に振り直した。 「ちょっとだけ、一緒にいたんだ」 「そっか。かわいそすぎるぜ。ゾウ公園にお墓作ってあげようぜ」  佐々木くんたちの反応はぼくが思っていたのとちがっていて、ぼくは胸が熱くなるのを感じた。先に佐々木くんたちがゾウ公園めがけて走っていく。  山下くんは血が付いてるのに、ゴンのお尻側を抱えてくれた。ぎゅうと心が押し出されてぼくはぼろぼろと涙をこぼした。ゴン、よかったねぇ。 「かわいそうだ。立派なお墓にしようぜ」  山下くんが言って、他のみんなが家にシャベルやスコップを探しに行ってくれた。  ゾウ公園は外周を桜が覆っている。公園の入口は昔からの大きな桜があって、半分より向こうはぼくがまだ幼い頃に植えられたもので、まだ小さい。  一足早くシャベルを持ってきた森くんが一番手前の桜のふもとを掘ったが、すぐに大きな根っこに当たってしまった。 「あっちならいけるんじゃないか?」  山下くんとぼくは一緒に公園の奥へとゴンを誘った。  入口から七本目の桜は一番ちいさな桜だった。 「この桜の下にしようぜ」  佐々木くんが、山下くんが、森くんたちが、シャベルや大きなスコップで土を掘っていく。ぼくも汗を吹きながら一生懸命に土を掘った。ゴンを埋めるためには大きな穴を掘らないといけない。何度も何度もめげそうになりながら、でも誰も途中で帰らず、同じ学校の子たちが途中から手伝ってくれたりした。 「これだけ掘れば、掘り返されることもないんじゃないか?」  佐々木くんが額を拭って、ひょいと穴に降りた。みんなでがんばったおかげで膝くらいの高さまで深くなった。日は暮れてしまっていた。固くなったゴンをみんなで持って穴に埋めた。とうに日が暮れているのにみんな最後まで手伝ってくれた。 「ありがとう。うぅ……ありがとう」  ぼくは感謝の念でこらえるものを抑えきれずにまた泣いた。 「押本よく泣くなぁ。これで押本の犬は天国いけるよ」  ゴン、良かったね。ぼくは土の中に埋まったゴンに心でささやいた。
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