25人が本棚に入れています
本棚に追加
実家に帰ると必ず立ち寄る場所がある。真夏の猛暑日でも、真冬の凍える日でも、ぼくはその場所を必ず訪れる。
実家からすぐ近くのゾウ公園に今日も立ち寄っていた。むかし、ゾウのすべり台があったことでゾウ公園と呼ばれていた。今は撤去されてしまっていて、おそらく近所の子供たちはゾウ公園とは呼んでいないだろう。
ゾウ公園は外周を桜が覆っていて春はとても綺麗だ。まだ二月末だから芽も膨らんでいない。
公園の入口から七本目の桜のふもとでしゃがみこんだ。根っこが土を盛り上げているだけで、なんてことないただの桜のふもとだ。
ぼくは手を合わせて幹をぽんと叩いた。
「帰ってきたよ」
と、つぶやいた。
ふと見上げると、つぼみがすこし膨らんでいる。ほかの桜にそんな予兆はない。
きっとゴンが桜を早く見たいんだろうな。ぼくは桜のふもとに手を添え、そう思った。
「パパー、行くよー」
後ろから息子に呼ばれ、ぼくは踵を返した。
最初のコメントを投稿しよう!