同期の花園

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 同窓会当日、朱は夫の付き添いでしか着たことのないドレスに袖を通した。同窓会に参加することに夫は難色を示したが、案の定娘の援護で承諾を得られた。  インターナショナルスクールの寮で暮らしている娘は、朱が人生で唯一愛情を注ぐ存在だった。休日には一緒にショッピングや料理をしたり、姉妹のように仲が良いと言われていた。そんな娘を朱は盾になってでも自由に生きさせてあげたいと思っていた。  会場は観光客相手というより出張のビジネスマンが寛げる風の、モダンなデザインのホテルだった。  朱はスカイラウンジ専用エレベーターと書かれた案内に従って最上階に向かった。七階にあるスカイラウンジは、下の階からは独立した造りのようだった。  エレベーターを降りた先にはクロークがあり、カウンターにいた女性の胸には天海と書かれたネームプレートが付いていた。指先の開いた肘まであるレースの手袋をはめ眼帯をした容姿は、何かのコスプレでもしてるのかと思えた。もしやドレスコードはコスプレだったかと、朱は恐々声をかけた。 「こんばんは」 「来てくれたのね! 久し振りすぎるかなとも思ったんだけど。どうも、ありがとう。ネームプレート旧姓でいいかしら」 「ええ。お誘い、ありがとう」  安堵した朱は、赤井と書かれたネームプレートを受け取った。 「赤井さーん! 久し振りー」  朱が受付名簿みたいな物はないのかと思った時、大声で呼ばれ驚いて振り向いた。  萌え袖のカーディガンを羽織った女性が、両手を振って駆け寄ってきた。目の前に来た女性はポケットから山河(やまかわ)と書かれたネームプレートを出し胸に着けた。 「久し振り」  覚えもないまま朱は大人の対応として相手に合わせた。 「赤井さん、預ける物があれば。(のぞみ)も」 「しーちゃん、これお願い。赤井さん一緒に行きましょ」  山河はキャリーバッグを預けると、朱を誘って会場に向かって歩き出した。  
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