同期の花園

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 山河が扉を開けると会場の喧騒が漏れた。しかし朱は自分が入った瞬間に、会場が静まりかえった気がした。全員がこちらを見ていると思った時には、もう何もなかったように皆が会話を続けていた。ほんの一瞬感じただけで、朱は気のせいだろうと会場の扉を閉めた。  綺麗に装飾されたラウンジは落ち着きがあり上品な趣があった。家事中心の生活になっていた朱は、久し振りに気持ちが昂るのを感じた。しかし、山河に付いて皆と挨拶を交わしてゆく内に、違和感のようなものを覚え始めた。 「じゃ赤井さん。また後で」  ひと通り挨拶を交わすと、山河は軽く手を振って一つのグループの輪に向かった。  残された朱は落ち着いて会場内を見渡した。そして胸の中に立ち込める霧のような違和感はなんなのかと考えた。  参加者は十数人。同窓会というには、あまりに小規模だった。ただ、中央のビュッフェテーブルや会場の隅にあるバーカウンターにスタッフが居ない所をみると、ホームパーティー気取りの貸し切りなのだろうと思えた。  皆、朱の顔を見ると懐かしそうに声を上げて名を呼んでくれた。しかし、それほどの関係なら何故、朱は記憶に乏しいのか。来る時点で分かりきっていた事ではあったが、さすがに顔を見て話す内に思い出すこともあるだろうと思っていた。しかし今だに朱の中に、懐かしいという感情は見当たらなかった。 「赤井さん」  名を呼ばれ振り向くと、幹事の天海が立っていた。 「望は?」  聞かれた朱は戸惑った。 「山河さんは?」 「ああ、あっちに」  山河のいる人の輪を指さしながら、違和感はこれだと朱は思い至った。
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