同期の花園

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 天海の後ろから顔を出した山河が、手に持った何かをひらひらと見せつけた。それは朱の携帯電話だった。そして息を吸い込むと元気よく叫んだ。 「スタート!」  会場にいる参加者が朱に向かって一斉に動き出した。危険を感じた朱は転がるように会場から飛び出し、エレベーターに向かって駆けた。するとエレベーターの前で話をしていた三人が、何か言いながら朱に向かって歩いてきた。  慌てて進路を変えた朱は非常扉に飛びついた。 「そんな……」  扉が開き安堵したのも束の間、屋上へ続く上り階段しかないことに愕然とした。しかし迷っている暇はなかった。追いつかれ捕まったら、どんな目に合うことか。この同窓会が常軌を逸している事は明らかだった。 「ああ。ダメ」  階段を駆け上った朱は床にしゃがみ込んだ。屋上に出られる扉が開かないのだ。膝を抱えてうずくまると、幾多の手に引きずり降ろされる覚悟をした。しかし気づけば物音ひとつしない。追いかけられていたのが気のせいかと思えるほどだった。  朱はゆっくりと立ち上がると、足音をたてないように階段を下りた。エレベーター前にもクロークにも人は居なかった。恐る恐るエレベーターにゆきボタンを押したが、何度押しても反応しない。外との接点はベランダしかなかった。  会場内の音を聞き漏らすまいと、朱は自身の心臓の音が聞こえそうなほど集中した。会場の扉に近づくにつれ、夫が見ていた映画のワンシーンが頭をよぎり、一斉に飛び出しては来ないかと足が震えた。  やっとの思いで扉に辿り着いた朱は、体を扉にくっつけ慎重に隙間を作ると中を覗いた。会場は真っ暗だった。さらに慎重に中に入ると、目を凝らし様子をうかがった。目が慣れるとベランダから差す月明かりが明るく、難なくバルコニーまで移動することができた。
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