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同期の花園
「うそ。うそ! こんなの嘘よ!」
崩れた化粧も気にせず鉄の扉を開いて外に飛び出した女は、自我を崩壊しかけていた。これが現実なワケがない。きっと夢だと。目に映る夜景が、余計にそう思わせた。
風に煽られたドレスが何かに引っ掛かった。
「お願い許して!」
女はドレスが引き裂かれるのも構わず、屋上の手摺に駆け寄り手を掛けた。視線は遠くを見据え、焦点が合っているのかは定かではなかった。
悪魔の手に弄ばれるように、女の髪は眼下から吹き上げる風に靡いた。
「これは悪夢よ」
女は解放を求め虚空に身を躍らせた。浮遊感は一瞬で消え去り、背中に浴びる落下感に目覚めた女は目を見開き「ごめんなさい」とつぶやいた。その体を受け止めたのは柔らかく暖かなベッドではなく、硬く冷たいアスファルトだった。
地面に滲む血のように道行く人々に動揺が広がった。その騒動に屋上のクスクス声は搔き消された。
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