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1 精霊の息吹
世界は未開の地ばかりで、人は森の傍で細々と暮らしていた時代の話。
その時代には、畏敬の対象として精霊や妖精が存在しており、自然の脅威として魔物や魔獣が森に闊歩していた。ごくわずかな人間が、魔術をもって自然の畏敬と交流し、自然の脅威に対抗するだけであった。
大地は、北に行くほど森が深く、山が険しくなっていた。
大地の南には、海がどこまでも広がっていて、水平線が一筋に空と海を分けていた。
そんな山岳と海とのちょうど真ん中に位置する国タウルンディアで、ある年の厳しい真冬の日、一人の王女が誕生した。
その産声は、高らかで瑞々しく、冷え冷えとした城が一気に活気づいた。
王妃サーシャは、出産の疲労でぐったりしていたが、生まれた子が女子と聞いて、ホッとしたのだった。
ところが、女子と聞いた夫である王のアンガスは、少し苛立ったように「女か」と呟いた。
すでに3歳に成長している長子ザカライアが病弱であったため、アンガスはスペアとして、第二子には男子が欲しいところだったのだ。
サーシャは、女の子であったことが、弱い兄と争わなくてすんで、むしろ救いと思っていたのだけれど。
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