君と、最期の散歩道を。

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 横断歩道もない車道を、車の往来がないかよく確認して早足で渡る。そうして前にした自販機の足元にしゃがみ、口に手を突っ込んだ。  どうでしょう、と太宰が問うが早いか否か、僕の手に小さな固い感触が触れた。 「……あった」  掴んだ手を広げる。神山タロの名前と住所が記された、楕円形のプラスチックプレート。  戻ってきた。  僕の手に。  けれど、戻ってこない。  これをつけるべき誰かはもう、二度と。  そう思うと、急に目頭が熱くなってきて、僕は誤魔化すように目元を隠しながら、方向転換して車道を渡ろうとした。  うなりをあげて右手から走ってくるトラック、その進行方向上へと。  それに気づいたのは、太宰の裂くような叫び声が聞こえた直後だ。 「伸太郎くんッ!」  同時、服が引っ張られて、僕は思わず後ろに足をついた。目と鼻の先を、猛スピードでトラックが過ぎ去っていく。  あまりに突然の、衝撃的な出来事に、茫然とした。が、直後にすぐそばで爆弾が炸裂するかのごとき怒号が脳を叩き起こした。 「オイコラ自分ン! 危ないやろが、スピード落とさんかい! こっちは歩行者おんねん! ダァホが!」  ……爆風で、遠ざかっていくトラックがわずかに揺らいだ……気がした。  いや、気のせいだと思うが、今の爆音は気のせいではない。  トラック去りぬ方向を向いたままの、憤然とした背中に、ぼそりと話しかける。 「……太宰」 「はいっ」 「君、出身どこって?」 「京都生まれの京都育ちどすえ?」  ……いや、もっと南のミナミの間違いじゃないのか。
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