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それは秋のこと。 暗くて明るい、月夜の遭遇。 ………… 住んでいるマンションの、やたら広いエレベーターホールは夜10時を過ぎて消灯していた。 普段なら非常灯のみの小暗い空間のはずだが、その日は一面ガラス張りの壁から月明かりが柔らかく降り注いでいた。 「キレイな子だな……」 その明かりを気持ちよさそうに浴びている人影が1つ。 初めて見る若い女性だ。彼女は満月を見上げて感嘆するように微笑んでおり、天使のようなその姿に思わず見惚れてしまう。 が、それがいけなかったらしい。 彼女は俺に気づくと途端に憂鬱そうな表情になり、エレベーターに乗るのを放棄して、最奥の階段扉へと消えてしまったのだ。 カツンカツンと、()ぐようなヒールの音だけがいつまでも響いていた。
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