【真鍮とアイオライト】14th 君が綺麗と云う満月の夜のあれこれ

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 ドアを開けたら別世界だった。  なんて経験、ラノベ以外ではそうそうあることじゃないと思う。大抵の人は一生に一度も経験せずに終わる。  それが、菫が知っている世界の常識だ。  菫は自分が平凡極まりない人間だと思っている。多分他人から見た菫も所謂『普通の人』だろう。多少(?)変わった特殊技能を持ち合わせてはいるけれど、『ちょっと変わった眼』なんて、履歴書に書くこともできないし、自慢もできない。  ともかく、平凡な己には平凡な人生が相応しい。と、菫は思ってはいる。  けれど、ドアをあけると、そこは見たことのない場所だった。  半月ほど前。夏の初め。祭りの夜。図書館の地下で扉を見つけた。そこは見たことがないほどに広い松林とその中に佇む稲荷神社の社があった。山ではなくなだらかな丘にどこまでそうなのかわからないほど広い松林が広がっていた。さすがに菫の知る限り、近くにそんな広い林が広がっている場所はない。  あるはずのない不思議な扉から繋がる、あるはずのない不思議な林が。そして、その先にはやはりあるはずがない不思議な社があった。  物理法則を簡単に無視するのはやめてほしい。と、モノ申したいけれど、あるはずがない不思議な扉の先にある場所なら、五百歩くらいは譲って、非日常が繋がっているのは理解できないわけではない。  けれど、今日。異世界に繋がった扉は、毎日通っている実在する扉だったのだ。
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