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月明君光
目を覚ますと、安心するその光がなかった。隣を見遣れば、一緒に眠りに就いたはずの彼女がいなくて。
「さて、今日は何処にいるのやら」
寝室にはいない。暗闇の中、目を凝らさずともわかった。彼女はとても見つけやすいから。
外に出て行くなとは散々言っているので、外出はしていないはず。……していないよな?
玄関に確認しに行くと、彼女の靴がそのままだった。良かったと胸を撫で下ろす。
リビングへの扉を開ける。探さなくてもすぐにわかった。
カーテンが膨らんでいる。そして、それは淡く輝いていた。
――まるでかぐや姫が中にいる竹のようだな。ということは、僕はおじいさんか。
なんて思って、小さく笑ってしまった。
一歩ずつ静かに近づいて行って、カーテンの裾をそっと上げる。
「見ーつけた」
「……見つかっちゃった」
小さく彼女が呟いた。
彼女はばつが悪そうに顔を逸らす。暗いのも相まってその頬は青白く見える。いや、光って見えるといった方が正しいか。
通称、満月病。
満月の夜になると体が光出す症状のことだ。他には特に体に害はない。ただ光るだけ。けれど、彼女はこの症状をとても嫌っている。
手を伸ばして彼女の頬を触るとやはり冷たい。
「こんなところにいたら風邪引いちゃうでしょ」
「……だって、わたしがいたら眩しいでしょ?眠るのに迷惑かなって……」
「僕のことなんて気にしなくて良いって言っているのに……」
そう言いつつも、僕のことを気にしてくれるそんな彼女の優しいところが好きなのだけれど。
ガラス戸から見上げた月が丸い。
彼女と初めて会ったのも満月の夜だった。
夜の公園にぽつりと佇む光。暗い中、とても目に付いた。
満月の光の下、淡く輝くその姿が幻想的で、満月よりも綺麗だと思って見惚れた。
――なんて、恥ずかしくて言えないけどね。
「僕は、光っている君のことも好きだよ。こうしてすぐに見つけられるしね」
「……恥ずかしいこと言っている自覚ある?」
「……ちょっとだけ。でも、ちゃんと伝えていかないと。君の自己肯定感を高めていくためにも。僕の気持ちを知ってもらうためにもね」
「毎回言ってくれるから、好意は伝わっています……」
「その割には自己肯定感が低いんだよなぁ」
「それは、その、おいおい……」
「まあ、何度でも言うから大丈夫か」
「ほ、ほどほどにお願いします……」
恥ずかしそうな彼女の頬をそっと包む。
――僕の熱が伝わりますように……僕の気持ちが伝わりますように。
そう、願いを込めて。
「さあ、戻って一緒に寝よう」
「うん……」
彼女の手を引いて立ち上がらせる。ごにょごにょと口を動かした彼女に「ん?」と耳を傾ける。
「光っちゃうのは嫌だけど、貴方が見つけてくれるから、前よりはまあ、いいかなって思えるようになったの」
それに、と彼女が続ける。
「さっきは、貴方に迷惑かけるからって言ったけど……こうして見つけてもらいたいのもあるからって言ったら怒る?」
彼女はちょっとイタズラっぽい顔を見せた。僕は笑って、その小さな額に一つキスを送った。
まるで淡く輝く光のように、彼女が柔らかく微笑んだ。
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