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彼女とは満月の夜に出会った。
当時の僕は夢遊病を患っていた。
時々夜になると、夢現なままに村内、ひいては村周辺の森の中を徘徊するのだ。
単身で村に引っ越して来たばかりだったから、不安によるものだったのだろうと思う。
彼女と出会ったのも、そのように夢に溺れたまま村周辺を徘徊していた時だった。
村へ続く街道の途中、月明かりに照らされながら彼女はそこにいた。
強い意志を感じさせる金色の眼。
毛髪の隙間から覗く、小さめで丸みを帯びた耳。
すっと通った鼻筋。
薄い唇。
しなやかさを感じさせるスタイルに、凛とした佇まい。
長い毛髪は月光を反射し、仄かに白く輝いている。
あまりの美しさに、月の女神が降りてきたのかと思った。
話しかけようとするが、喉から上手く言葉が出ない。
手を伸ばそうとするが、思うように手が動かない。
このままでは彼女が行ってしまう。
そう絶望しながら立ち尽くす僕に彼女は気付くと、ゆっくり優雅に近付いて来た。
彼女の金色の眼が真っ直ぐに僕を見る。
僕の顔から握りこぶしひとつ分ほどの距離。彼女の綺麗な顔がすぐそこにある。
目を合わせ続けていると、そのまま惹かれ、引きずり込まれてしまいそうだった。
言葉を通わせずとも心が通じている。そんな感覚に酔いしれる。
僕たちは静かに口先を重ねた。
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