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「実は昨日のコンペの件、僕なりに改善策を考えてきたんだ。見てみてくれないか?」
「コンペ……」
現実へ引き戻すワードを繰り返す。途端にふわふわ浮つく気持ちや、輝いて映っていた周囲の光景が真っ黒に塗り潰される。
「私、アドバイスは要らないと言いましたよね?」
「僕等は今現在、社内恋愛をしている設定でしょ? 恋人の仕事を手伝ってもいいだろう? たぶん次回のコンペ結果は重要視される。僕は君に結果を残して貰いたい」
早口の部長。うっかり私等の関係性を設定と認めてしまって、承知していたとは言えどショックを受けた。
結局、部長は元部下に良い成績を残させたいの? 私の成功イコール部長の功績となるから? ポップアップストアはオマケで、本題はこちら?
酷い疑問が頭の中をグルグル回る。
「これだ、どうかな?」
部長はバッグから企画書を取り出して、机上へ広げた。資料室で流し読みをしただけなのに私が提案したい事柄を汲み取り、分かり易く言語化してある。
一夜で仕上げであろう企画書に私が介入する隙間など見当たらない。それはつまり完璧、私など居なくてもいいって意味だ。
「岡崎?」
部長らしくないが、朝霧君が昇進して焦っているのかもしれない。
「いえーー何でもありません。お忙しい中、私の為にありがとうございます」
「礼など要らないよ。参考にしてくれたらいい」
胸を撫で下ろす様子に私は笑顔を必死で保つ。彼はなにも私が憎くてこんな仕打ちを仕掛けてくるのではないと言い聞かす。
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