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「こちらをどうぞ」
企画書の上に小箱を乗せた。
「何、これ」
少し考える。
「早いですが、クリスマスプレゼントです」
「ーー開けても?」
どうやら部長は私の主張を聞いて諦めたようだ。企画書を雑にしまい、包みを手の平に置いた。
「どうぞ」
頷くと彼は無言で開封し、ネクタイピンを摘み上げる。さり気なくハイブランドのスーツを着こなす部長が自分では買わない品をあえて贈りたかった。
「……山猫のネクタイピン、しかもゴールドか……ありがとう。大切に使わせて貰うよ」
と言いつつ、すぐ箱を閉じてしまう。その反応は想定内だ。
「身に着けて下さるんですか?」
「そうだな、肝心な場面で素直にならなきゃいけない時にでも付けてるよ」
「ふふ、そんな時があるんです? 素直な部長なんて想像出来ません」
「あるだろ、割と近々に」
部長の軽口を話半分で聞き流し、ホットコーヒーを飲む。程良い苦味が広がり鼻から抜けていく。
あれだけ大見得を切ったのだ、やるしかない。次のコンペで挽回しよう。
決意を新たにする私はまだ知らない。
この時、部長が大きな決断を下していたのをーー。
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