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「朝霧に頼んでいた物を持ってきてくれたんだろう? ありがとう」
封筒を寄越せと招く。使われていないはずの室内は部長好みに模様替えされており、清掃もしてある。
「どうしてこんな所に?」
「自分のデスクは落ち着かなくてね。君の耳にも届いているでしょう?」
今日に限らず、ここで頻繁に業務をしているんじゃないのか。コーヒーメーカーまであるのだ。
「……ご結婚されるそうで?」
預かった封筒をクシャクシャにしてしまいそうになる。
「しないよ」
部長はあっさり言う。
「え?」
「しないってば。見合いはしたけど」
「お見合いはしたのに結婚しないんですか?」
「見合いをしたからといって、必ず結婚する訳ないでしょう? その封筒を見るに君もつまらない噂を信じたくちかな? 見合いしているのを社内の人間に見付かり、言いふらされたんだよ」
顔ではなく折曲った封筒からこちらの心を見破る。噂の種明かしを拍子抜けしてしまうくらい淡々とされた。
「でも、結婚の意志があるからお見合いしたんですよね?」
「おや、まだ引っ張るのかい? いいよ、とりあえず座って話そうか」
手前の椅子を勧められる。面接官と採用希望者みたいな向かい合わせとなると、部長の存在が改めて大きく感じる。
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