社内恋愛を始めたところ、腹黒上司が激甘彼氏になりまして

18/28
前へ
/49ページ
次へ
「朝霧に頼んでいた物を持ってきてくれたんだろう? ありがとう」  封筒を寄越せと招く。使われていないはずの室内は部長好みに模様替えされており、清掃もしてある。 「どうしてこんな所に?」 「自分のデスクは落ち着かなくてね。君の耳にも届いているでしょう?」  今日に限らず、ここで頻繁に業務をしているんじゃないのか。コーヒーメーカーまであるのだ。 「……ご結婚されるそうで?」  預かった封筒をクシャクシャにしてしまいそうになる。 「しないよ」  部長はあっさり言う。 「え?」 「しないってば。見合いはしたけど」 「お見合いはしたのに結婚しないんですか?」 「見合いをしたからといって、必ず結婚する訳ないでしょう? その封筒を見るに君もつまらない噂を信じたくちかな? 見合いしているのを社内の人間に見付かり、言いふらされたんだよ」  顔ではなく折曲った封筒からこちらの心を見破る。噂の種明かしを拍子抜けしてしまうくらい淡々とされた。 「でも、結婚の意志があるからお見合いしたんですよね?」 「おや、まだ引っ張るのかい? いいよ、とりあえず座って話そうか」  手前の椅子を勧められる。面接官と採用希望者みたいな向かい合わせとなると、部長の存在が改めて大きく感じる。
/49ページ

最初のコメントを投稿しよう!

613人が本棚に入れています
本棚に追加