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「繰り返すが、僕は見合いで結婚はしない。それはどうしてだと思う?」
「どうしてってーーお相手の条件が合わなかったとか?」
取引先のご令嬢、かつ将来は会社を継ぐ未来予想図が物足りないとしたら、部長の理想はエベレスト級だが。
私の答えに部長は分かっていないなとばかり、かぶりを振る。
「心外だな、僕は相手をむやみに選別する条件を出すのは好まない。可愛い、綺麗とか、資産家の娘など生まれ持ったものより、内面を重視する」
「しかし、部長は社内恋愛はしないのでは? 社内の女性というだけで恋愛対象者から外す事を一般的に選別と言います」
「そ、それは。今は考えを変えて君としているじゃないか! 過去の価値観に固執するのは良くないだろ」
「はい? あのおふざけ、まだ続いていたんですか?」
そして沈黙。てっきりカフェでの一件で部長の目的は果たされたと思っていたから。
それに例え預かり知らぬところで社内恋愛が継続していても、部長は恋愛中にお見合いをしていた訳で。私が彼に無言の圧をかけられるのは納得がいかない。
「ーーいて、と言ったじゃないか」
睨み返すと聞き取れない小声を発する。部長は手元の万年筆を必要以上に弄り、迷っているのが伺われた。
一体、何を迷うのだろう。はっきり言えばいい。
「部長、何をーー」
「君が待っていてと言ったからじゃないか!」
部長は私を遮り、席を立つ。
「見合いを断った理由は君だ。何故そんなことも分からない?」
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