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「松下部長、いい加減にして下さい。大きな声を出しますよ?」
憧れの人に抱き締められてドキドキしないはずない。しかし雰囲気に流されまいと踏み止まる。
どうか、色恋沙汰など興味はない、出世だけを目指す仮面(ペルソナ)を剥がさないで。
「大きな声?出せばいいよ。その前にキスするから」
「は?」
「訂正、しなくてもキスをする」
言うなり顎を持たれ、さっと頬を撫でる。魔法に掛かったみたいに私は瞳を閉じ、柔らかな感触を受け止めてしまった。
「はぁ、もう待てない、さらってもいい?」
「ま、待って、何がなんだか」
「はは、聞いてた? 僕は待てないって言ったよ? 君は忘れっぽいな」
怒涛の展開で頭が沸騰する。口付けの意味も余韻も考えられない中、たった一つだけクリアな感情があった。
「……お言葉ですが、私、忘れっぽくありません。あのクリスマスをずっと、ずっと覚えてます」
魔法のキスで眠らせていた気持ちが目を覚ます。
胸が痛い、唇が震える。この気持ちを打ち明けしてしまえばどうなるか怖い。
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