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「……ところで朝霧部長の頼まれごとって」
「あぁ、それな」
床に落ちた封筒から中身が飛び出していた。この用紙はーー。
「転属願い?」
「君を引き戻したいと朝霧に伝えてある。ついでに半日休暇も申請しておいたぞ。勤務中にイチャイチャするのは後ろめたいだろ?」
つまり、この時間は勤務外。なんという用意周到さ。朝霧部長が気まずそうに書類を渡してくる訳だ。
「流石ですね。既に朝霧部長の押印までされてるじゃないですか」
「だろ? 転属届けは君が記入するだけの状態だ。ちなみに朝霧は君を引き抜かれるのに難色を示したが、次のコンペで結果を出せば応じると言ったよ」
コンペの結果を待たずとも転属届けに判を押してくれたのは、私を買ってくれているのだろう。
「朝霧部長も部下想いで、いい上司です」
言うと、部長は眉をひそめた。
「僕の方がいい上司。朝霧を説得する為に様々な手回しをしたんだぞ? 見合いをしたのも彼に僕の覚悟を証明する為だ」
「そんな朝霧部長と張り合わなくても……取引先の社長になれるチャンスだったんですよね? いいんですか?」
「別に僕はキャリアアップを諦めたんじゃない。ひとまず君を待っていただけで、明日からはまた目標に向かい働くよ。だからちゃんと追い掛けて来なさい。いいね?」
「はい」
現状に満足せず、より高い場所を目指す部長の姿勢は格好いい。最高、最強の上司だ。
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