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「さて、ここからは恋人の顔になろうか。街に出てクリスマスプレゼントを買いに行かないかい? デートをしよう」
出来る男はオンオフの切り替えが早い。
「あっ、クリスマスプレゼントといえば、ブックカバーをまだ使ってないです」
「勿体なくて使えないとか? ほら、贈り物はこんな風に使わないと駄目だぞ?」
ネクタイピンを指差す部長。
「山猫のネクタイピン、やっぱり浮いてますね。せっかくなので新しい物をプレゼントさせて下さい。何がいいです?」
「いや結構、とても気に入っている。君ーー梨里がくれるなら、どんなものでも嬉しい。そうだ『ねぇかわ』ショップに行こうか? あれから『ねぇかわ』について調べたら僕も興味がわいてさ」
満面の笑みで言われてしまうと、ピンを悪戯心で贈ったのが心苦しくなる。無論、部長はそれを承知しているはず。
「いえ、百貨店とかの方がいいのでは?」
「梨里は百貨店なら僕の欲しいものが売ってると思うの?」
「少なくとも部長に見合う商品を扱っているとは思いますが……」
「はぁ」
部長が大袈裟に息を吐く。
「分かってないなぁ、全然分かってない。これは仕事同様、僕が一から教えないといけないな」
ニヤリと口角を上げた彼から、オンでもオフでもないスイッチが入る音がした。身の危険を感じた私は距離を取ろうとしたが、再び抱き竦められた。
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