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「龍は人身御供など欲してはいません」
突然太郎が話し始めた。
「ただ、喉に刺さった魚の骨と、気管に張り付いたアカメの目玉を何とかしたかっただけです。それも今は取り除かれました。マリンちゃんの協力のおかげです。なのでもう何も望む事はありません」
太郎の目が赤く光り、体中黒光りする鱗に覆われ始めた。
「これからはそのタマサンゴを供えてください。マリンちゃんとの楽しかった時間を思い出す事ができるように。マリンちゃん、楽しかったよ……」
太郎はすっかり龍になり、空へと昇っていった。
「タマサンゴ……別名龍の玉」
「龍の玉!?」
「12月10日の誕生花なのよ。マリンの誕生日の。だからおばあちゃんが植えたのよ」
ただ赤くてきれいな実だなと思っていたタマサンゴだったが、母親の話を聞いてとても近く感じた。
「太郎くんの目、タマサンゴみたいだったね」
「そうね」
マリンと母親は、もう見えなくなってしまった龍が泳いでいるであろう青空を見上げた。
「太郎だ。私も太郎だ、浦島太郎だ」
「そうね、あれからもう30年経ってるからね」
「30年!?」
「白髪になったのはママの方だけどね」
マリンと母親はしっかりと手を繋ぎ、家の中へと入って行った
〈終〉
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