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赤い月夜
「ママ、今夜の月は赤いね」
明日6つになる海は、車を運転する母親に告げた。
「何言ってんの、白いよ。夜中までゲームしてて目がおかしくなっちゃったんじゃないの?」
にべもなく返された言葉に、マリンはムッとしながらも月を見上げた。しかし急に気持ちが悪くなってきた。
「酔った……」
「えー! 吐かないでよ!」
車は海沿いの道を進んでいく。窓は閉まっているのに、何処からか生臭い匂いが漂ってくる。マリンはシートでうずくまりながら外の景色を眺めていた。
(きれい)
色を失くした空と海。しかしその白黒の風景を月が真っ赤に照らしていた。まるで夕陽のように美しかった。
海沿いの道を左に折れ、つづら折りの上り坂をしばらく走る。一層気持の悪くなったマリンは口を押さえシートで丸まった。
山道を抜けると人家がちらほら現れた。その一軒の家の庭に車は滑り込んだ。
「海ちゃんいらっしゃい……あら、海ちゃんは?」
「寝てる。それに何度言ったら覚えるの? ”うみ”じゃなくて”マリン”って読むのよ」
「海は”うみ”にしか読めないわよ。海ちゃん、いらっしゃい……あらまあ、良く寝てるわね」
祖母はマリンを優しく抱っこして車から降ろした。母親は既に茶の間で缶ビールを飲んでいた。
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