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なにもかもがどうでもよくて、まるでフィルターを通した世界を見ているようで現実味が乏しかった。
それでもミスなく仕事を終えることができたのは《今日》を何度も繰り返してきたからだろう。
「お先に失礼します」
舞は抑揚のない声で残っている看護師たちに声をかけ、更衣室で私服に着替える。
淡々とした動きを止めたのは従業員専用の出入り口から外へ出たときだった。
「長谷川さん」
変わらない声に足を止める。
なにも変わらない。
彼だけはずっとずっと、変わらなかった。
そう思っただけで胸の奥がジンジン熱くなってきて、涙がこみ上げてきた。
「少し、話があるんだけどいいかな?」
振り返らなくても、彼が周囲を確認しているのがわかる。
いつもそうだったから。
《今日》が何度訪れても、同じだったから。
「あの、俺……」
彼が言葉をつまらせる。
舞の喉も詰まった。
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