先進エネルギー

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「クリーンエネルギーだの再生可能エネルギーだのって、ここ数年で世の中すっかり様変わりしちまったな」 辺り一面に雪が降りしきる極寒の世界で、長く髭を伸ばした中年の男が一人、タンクローリーの上でブツブツと愚痴を漏らしながら、せっせと作業を進めている。 時は西暦2045年、12月24日。 世の中がクリスマス一色でで盛り上がっている中、トラック運転手のマリオ・ラーリーは、今ではすっかりクラシックカー部門に分類された、ガソリンエンジンを搭載した大型タンクローリーの運転手として、今日も休まずに仕事に励んでいた。 もう10数年程前になるだろうか? 人々はとうとう原子力に変わる新しいエネルギーを手に入れた。 この新しいエネルギーは当然、原子力のような再生可能なエネルギーであって、なおかつ何か事故が起こってしまった際も、それが原因で人体に及ぼす科学的な影響が極端に低いクリーンエネルギーでもあった。 唯一の欠点は、原子力に比べて発電効率のパワーとパフォーマンス面で劣る事だが、そこに関しては動力源となる発電施設を増やす事で解決をする事が出来た。 やがてこのエネルギーがワールドスタンダードなエネルギーへと進化をすると、世界は当然このエネルギーを軸にしたあらゆる物の開発を始め、我々の生活基盤は、今ではすっかり電力が主体の生活へとシフトしている。 このように、主体になるエネルギーの勢力図が、化石燃料から再生可能エネルギーへと大きく変化したこの世の中でも、マリオ・ラーリーは、今ではめっきり数が減ってしまったガソリンとエンジンで動くトラックを操る運転手なのだ。 「おいマリオ。お前さんもいい加減にバッテリー式の電気自動車に変えろよ? そんなもんいつまでも転がしてたって、燃料代ばかり高く付いちまって、商売にならんだろう?」 タンクローリーの荷台で作業しているマリオに話しかけたのは、この車の積荷を受け取りにやって来た、取引先の担当者であるロベルト・バーンズだった。 「分かってないなロベルト。人も車も、それに見合ったカロリーを消費して生きるから価値があるんだ。この車は、俺の一生の相棒だよ」 マリオは荷台の上からロベルトにそう言い切ると、間もなく作業を終えて荷台から降りてきた。 彼は荷台から降りると、すぐ横で大きく咳き込んでいるロベルトを見てニヤリと笑う。 「だから、エンジンの側にいると排気を吸い込んで咽ると言っただろう」 そう言ってマリオがニヤつきながら積み荷の受け取りサインをせがむと、ロベルトは片手を上げながら近寄ってきて、ゴホゴホと咳をしながら受け取りのサインをする。 「おいマリオ。燃料の事をカロリーって言うならば、電気自動車だって立派に電気と言うカロリーを使って走っているんだ。それにガソリンなんかに比べたら、電気自動車の方がよっぽど低カロリーで走って燃費もいい。お前が車を乗り換えてくれるだけで、こっちとしては燃料代と言うカロリーをカットして、輸送費の面で相当なダイエットをすることが出来るんだけどな」 この手の話しを何度説得しても首を立てに振らないこの男に、嫌味の一つもいいたくなったロベルトは、たまらなくなってマリオにそう助言をした。 だが、マリオは腕の良いドライバーだ。 大雪が降ったり、ハリケーンが直撃したりして、他の車が[今日は配達出来ない]と音を上げている中でも、彼だけは必ず請け負った荷物を届けにやってくる。 そう言った信頼性の部分を見ると、少々燃料費がかさんだとしても、ロベルトがマリオを手放せずに居るのは確かな事だった。
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