先進エネルギー

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ロベルトはその後も、小言をぶつぶつと言いながら全ての積み荷の受け取り書にサインをすると、それを手早くマリオに渡してやった。 マリオはその紙を大切そうにビニールケースの中にしまうと、大型のタンクローリーをよじ登るようにして這い上がり、運転席のドアを開けると、中へと乗り込む。 すると運転席に着席したマリオは、窓を開けてロベルトに何かを放り投げた。 ロベルトはトラックの窓から降ってきた贈り物をしっかりキャッチすると、寒空のもとで頬を緩ませ、マリオに礼を言った。 「パンじゃないか! 丁度腹が減ってたんだ。有り難く頂くよ!」 ロベルトは嬉しそうにマリオに向かって手を上げて合図すると、早速パンが包んであった包装を破り、そのパンを勢いよく口の中へと放り込んだ。 そして、そのパンのあまりの不味さに顔をしかめた。 パンと言われれば確かにパンだが、焼けた小麦の香ばしい香りなんか微塵もしない上に、味なんてあったもんじゃ無い。 それでもかろうじてパンと言えるのは、その形と熱が入った部分の色味だけで、こうなるとパンの形をしたゴムを食べていると言っても良いくらいに不味かった。 「そのパンはここに来る途中のサービスエリアで貰ったんだけど、お前さんの大絶賛する[超低カロリー]のパンなんだってよ。使う原料を徹底的に低カロリーの物に吟味して、余計な調味料を徹底して最小限に抑えたり排除した事で、どれだけ食べても太る事のないパンになってるそうだ。まあ、俺も車も今の所はそこまでして[ダイエット]をする気もないから、俺はいつも通りサンドイッチを頂く事にするよ。確かにガソリンエンジンは毎回凄いカロリーを必要とするが、その代わり発電所や送電設備にトラブルがあって、電動車の奴らが荷物を全く運べなくなったとしても、電気が使えなくてもハイパワー・ハイカロリーな俺達が変わりにその荷を届けにきてやるよ。ロベルト、最新が常に正しい訳ではないんだ。それでもこの車を否定すると言うのなら、その低カロリーのパンをもうちょっと美味そうに食ったらどうだ?」 そう言ってマリオは、袋から出した美味しそうなサンドイッチを口いっぱいに頬張ると、ロベルトに向かってガッツポーズを決めて走り去って行った。 時代が進むにつれてテクノロジーは確実に進化を遂げ、我々の生活もより先進的で便利になっていく。 しかしその反面、人々はアナログな生き方をすっかり忘れてしまった。 例えば炊飯器が出来て、米を研ぎさえすれば、誰でも上手に白米が炊けるようになった。 しかし炊飯器が壊れた時、飯ごうで飯を炊ける人は居なくなった。 携帯電話がスマートフォンに進化して、誰が何処からでも好きな所に連絡が取れるようになった。 しかし、通信を管理する施設のコンピューターがダウンした時、公衆電話の使い方を知らなければ、混乱している状況を誰かに伝える事すらできやしない。 とても腹が減っている時、栄養は確かにあったとしても、味も素っ気もないパンを与えられたって食べる気にもならない。 テクノロジーが進化すれば、我々の生活もより良く進化する。 これは確かな事なのだが、テクノロジーの進化は、それに比例して人々を脆弱にする。 だから最新のテクノロジーが全て正しい訳ではないと、マリオ・ラーリーはそう言っているのだ。 【大切なのは調和とバランス】 そのあたりの所、人々はもう一度カロリーを使って考えてみてもいいのかもしれない。 ―完―
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