26人が本棚に入れています
本棚に追加
そんな考えを見透かすみたいに、志麻くんが私の腕を掴む。長めの黒い前髪の奥に見え隠れする瞳が、いつも以上にまっすぐ私の姿を捉えているのが見えた。
「……千綿、ちょっとだけ。来て」
「志麻く……待って、私……!」
「すぐ済むから」
問答無用で私の腕を引いて歩く志麻くんは、解放してくれる気はないらしい。
きっと本気を出せば振り払うことはできるのに、そうしないのは、ちゃんと嫌われる勇気が無いからなのかもしれない。
だって私は、志麻くんのことが大好きなのだから。
「志麻くん、あのね、私……」
「待って、俺が先」
志麻くんが足を止めたのは裏門のすぐそば。生徒たちはみんな校庭の方にいるのだろう、後夜祭に参加しない生徒が一人通り過ぎていく。
その生徒が裏門を抜けていったのを確認してから、志麻くんが口を開いた。
「俺は千綿が好きだ」
止めることもできず、彼に向けられた好意が鮮明な音になって私の耳に届く。
大好きな人が私のことを好きだと言ってくれた。
最初のコメントを投稿しよう!