第七話 生存作戦会議

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 最初のペアは九組み。そこから、さらに二人、板橋と井伏が死んでいる。彼らが恨む者か、恨まれる者のどちらだったのか、今となってはわからない。  春奈がそれについて述べると、 「でも、推理はできるよ。板橋くんはペアの相手がいるっていうルールを説明される前に、自分の錠前に鍵をさした。だから、もしも板橋くんが恨まれる者だったら、そのあとすぐに、ペアの相手は板橋くんを形式だけ粛清しようとするはず。まあ、わたしたちみたいにターゲットがわからない場合もあるけど、そうじゃないなら、相手も死んじゃってるし、良心の呵責(かしゃく)なく粛清できるよね?」  たしかに、鈴の言うとおりだ。どっちみち、相手は死んでいる。自分が助かるためには必ずペアの錠前に鍵をさしこまないと、電極のスイッチが止まらない。 「あっ、もしかして、小町がペアなんじゃない?」  しかし、鈴はそれには首をふった。 「もしそうなら、井伏がジャマしたとき、小町はそう言えばよかった。さすがにクソマジメな井伏でも、もう死んでる人のために小町にも死ねとは言わないでしょ?」 「そっか。そうだよね」 「だから、板橋くんは恨む者で、ペアの相手は板橋くんに恨まれてるって気づいてなかったんじゃないかな。そうでなければ、わたしたちみたいに恨む相手が誰なのか明確にわかってない。そのどっちかだよね。ただ、みんながみんな、そうじゃないと思う。わたしたちみたいに家族を殺されて恨んでるとしても、相手か、その子どもを殺してもいいと思うほど憎めるのはそうとうのわけありだよ。大半は自分のことで恨んでるはず」 「そうだね」  鈴の推理には説得力がある。 「井伏くんは?」 「わたしたちは相手を殺したいほど憎いって感情を知ってる。井伏もそうだったら、あんなキレイごと言えるかな? 自分の恨んでる相手がクラスのなかにいるとわかったのに?」  春奈は考えてみたが、ちょっと現実離れしている。もしも、この恨みを抑えて、相手をゆるしたとしても、代償は自分の命だ。なんで恨んでる人のために自分が死ななければならないかと思う。少なくとも、春奈はそうだ。もしもルールが違っていて、相手をゆるせば、自分も相手も助かるなら、また別の答えもあるのだが。 「つまり、井伏くんはあれで意外と誰かから恨まれてたの?」 「たぶん」  恨む者ではなく、恨まれる者だった。自分に恨まれてる自覚がないから、ゲームじたいに半信半疑だったのかもしれない。  鈴は悲しげにつぶやく。 「わたしもまだドッキリじゃないかって思うときあるもん。そうであってほしいなって。井伏くんはそう考えてたのかもね」 「なら、井伏くんと板橋くんがペアだった可能性もあるよね?」 「あるかもしれないけど、そこまでキレイに行ってくれるかな。まあ、全部、推測だけどね。恨まれる者は九人。とりあえず、わたしたちのペア候補は残り八人の誰かだと思えばいいよ」 「八人か」  小町のようすを思いだして、春奈は少し不安になった。もしも、小町の父が強盗殺人犯だったなら、むこうは春奈を知ってる、とも考えられるのだ。あれだけさわがれた事件だから、被害者遺族の春奈の名前はネットで調べれば、すぐに出てくる。あのときのフードをかぶっていた子どもが小町だという可能性も……。 「このゲーム、難しいね。十八人のなかから、たった一人をしぼりこめって、確率低すぎるよ」 「だから、早めに恨まれる者を探すんだよ。恨む者同士なら手を組めるし」 「それいいね」  情報収集するにしても、二人でやるより人数が多いほうがいい。だが、鈴は表情をひきしめた。 「春奈。でもね。これだけは約束して」 「何?」 「恨まれる者だって、死にたくはないよ。こっちを撹乱(かくらん)してくると思う。もしかしたら嘘をつくかも。それに、恨む者側でも、そこから、わたしたちの情報がもれて、ペアに察しをつけられるかもしれない」 「そうだね」 「春奈、わたしの親が医者だったとか、自分の家族が強盗に殺されたとか、ほかの人に話した?」  春奈は即座に否定した。 「鈴以外には話してない」 「じゃあ、これは二人だけの秘密ね。仲間を探すときにも、ほんとの事情は隠しておいて、別の理由を言っとくの」 「嘘つくの?」 「まあそう。二人で辻褄あわせるために、みんなに話すときのための嘘を考えとこうよ」  鈴の言うとおりだ。たとえ、恨む者同士のあいだでも、自分が助かるために、春奈たちの秘密をもらす人はいるかもしれない。 「じゃあ、わたしは家族が乗ってた飛行機がハイジャックされて、みんな死んだことにする」 「飛行機より、船のほうがいいよ。ハイジャックだと犯人は大人だからね。船が遭難したときに、助けてくれなかった中学生がいて、家族が死んだって言えば、相手が子どもでも自然だよ」 「スゴイね! 鈴はほんとになんでも思いつくし、頭いいよ」 「わたしは放火で家族が死んだって言おうかな。目撃者がいて、犯人は中学生くらいの子どもだったみたいだって」 「わかった。わたしが船の遭難で、鈴が放火ね」 「おたがいについて、しつこく聞かれたら、そこまでくわしく知らないって言っとけばいいよ」 「そうしよう」  鈴と二人でなら、なんとかなりそうな気がしてきた。
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