第七話 生存作戦会議

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 嘘の素性が決まったところで、鈴はB5のルーズリーフをとりだした。 「タブレットに入力してもいいんだけど、もしかしたら、この中身は学校側に共有されるかもしれないから」  そして、ルーズリーフに鈴はクラスメイトの名前を男女にわけて書きだしていく。  女子  綾川鈴  桜井春奈  小町絵梨花 モデル活動。男子人気。初日でボックスに入ろうとした。  和島苗花 スポーツ万能。スタイルいい。  本波摩耶(ほんなみまや) 小町ほどじゃないけど美人。クラスカーストナンバーワン。  弓本かなか 摩耶のとりまき。いつもひっついてる。  望月愛音(もちづきあいね) ツインテール。天然かと思ってたけど、キレやすいみたい。小柄。  小柴萌乃(こしばもえの) スイーツ大好き女子。ちょっと、ぽっちゃり。  戸谷美憂(とたにみゆ) 目立たない。読書好きみたい?  男子  蘇芳(すおう)涼夜(りょうや) 物静かなイケメン。女子に人気。  寺門(じもん)(あきら) スポーツ入学。背が高く俊敏。ムードメーカー。苗花と仲いい。  宇都宮 学年一の秀才男子。  紀野(きの)廉太(れんた) 陰キャな一匹狼。  海原翔(かいばらしょう) 摩耶の彼氏。クラスカースト上位メンバー。  紫藤大夢(しどうひろむ) 海原の友達。  羽田・ルーカス・圭佑(けいすけ) 父親がブラジル人。  初日死亡者  後藤 最初の犠牲者。  板橋 二人めの死亡者。  井伏 学級委員。  個人のひとくち特徴も記されて、わかりやすい。  こうするとクラスの相関図も見えてくる。 「本波さん、弓本さん、海原くん、紫藤くんはいつもつるんでるよね」 「だからって、四人が恨む者か恨まれる者で、かたまってるとはかぎらないんだけどね。もしかしたら本人たちが気づいてないだけで、じつはグループ内でペアとかもありうる」 「小町と和島さん、愛音と萌乃が仲いいし。戸谷さんはいつも一人だよね」 「おとなしいもんね。話しかけてもあんまり答えてくれないし」  戸谷はほんとに目立たない女子だ。いるかいないかわからないタイプ。小町と苗花はオシャレ女子で、愛音と萌乃はスイーツやマンガやアニメが好きなタイプ。いわゆるオタク女子だ。  春奈と鈴は一番ふつうの女子と言っていいだろう。オシャレにもスイーツにもマンガにもそれなりに興味があるので、それぞれのグループともそこそこ話す。  クラスカースト一位の摩耶たちのグループとも、会えばふつうにあいさつくらいはする。  男子の事情は女子ほどにはわからないものの、宇都宮と寺門、死んだ井伏が仲がよかった。寺門個人は苗花ともよく話している。おたがいにスポーツ入学だからだろうか。もしかしたら、つきあってるのかもと思う。 「羽田くんは死んだ後藤くん、板橋くんと仲よかったよね」と、鈴が言う。 「そうだったかも」 「三人はたぶん、西日本から来てたんだよ」  西日本から。羽田ルーカスはおそらく関西だ。親が春奈の家族を殺した犯人であってもおかしくない。 「でも、さっきも言ったけど、ふだん仲よしかどうかは関係ないんだよね。誰が恨む者で、誰が恨まれる者か、二つにわけていこう」 「まだわかんないよ」 「紀野くんだけは、確実に恨む者だよね」 「そうだったね」  鈴は思案した。 「最初に仲間に入れるなら、紀野くんしかいないね」 「ちょっと怖いんだけど」 「でも、復讐するためなら力を貸してくれそうだよ」  まあ、しょうがない。命がかかっているのだ。それに、家族の(かたき)も討ちたい。毎晩、泣きはらしたあの日々を思うと、今でも悔しさに胸がふるえる。 「鈴。ほかにも味方にできそうな人いるかな?」 「こっちが恨む者だって言わなければ、さぐりを入れれる人はいるよ。たとえば、小町は相手がわかってるみたいだから、それがわたしたちなのかどうか、恨む者なのか、恨まれる者なのか、それとなく聞きだしてみるのはいいかも」 「もしも、小町のペアがわたしだったら?」 「もし、わたしたちがそれなら、顔見たとたんに逃げだす気がする。これから自分が殺すつもりの相手だもん。顔色が変わるとか、さけようとするとか、態度には出るだろうな」 「そっか。小町がペアじゃないとわかるだけでも進展だよね」  鈴はさらに提案する。 「わたしたち、愛音や萌乃とは、ふだんからわりと話してるよね。苗花や小町ともそれなりに。だから、『怖いよね。どうしよう』って泣きごと言うふりして、あの子たちがどっち側なのか見当をつけるていどならできると思うよ」 「そうだね」 「とくに萌乃はスイーツで釣れそうだし、愛音は感情的になりやすいから、うまく自分を抑えられないと思う」  春奈がうなずくと、鈴は続けた。 「あとね。これは慎重にしたほうがいいんだけど、春奈、自分のペアは羽田くんじゃないかって言ったよね?」 「ハーフは羽田くんだけだから」 「羽田くんって、後藤くん、板橋くんと仲よかったから、それを利用するの。『死んだ人でもペアの可能性はあるから、二人が誰かから恨まれたり、逆に恨んでたりしてなかった』かって聞けば、教えてくれる可能性はあるよ。そのときに、本人のようすも観察できる」  鈴はほんとに頭がいい。そんな方法、春奈だけなら思いつきもしなかった。 「じゃあ、明日から、その人たちを調べよう」  言ったものの、鈴は首をふった。 「明日からじゃ遅いよ。今日は夕食のあとすぐ寝ないと」 「どうして?」 「日付けが変わったら、ボックスに入れるんだよ? 小町やほかのメンバーでも、ターゲットがわかってる人たちが食堂に行くかもしれないでしょ?」  春奈はほんとに脱帽して、返す言葉もなかった。
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