20人が本棚に入れています
本棚に追加
/79ページ
第十三話 闇のなかの攻防
かなり長時間待ったが、死神たちが定位置からいなくなることはなかった。やつらは一晩中、そこを見張っているらしい。
「萌乃はたぶん違う気がするけど、協力するよ。何かわかったら教える。わたしたちも恨む者だから」
鈴は言うが、ほんとにそうだろうか? 美憂の話がほんとなら、鈴は恨まれる者である可能性だってあるはずだ。しかし、春奈が考えているうちに、鈴は続ける。
「それにしても、あの死神、困るね。これじゃ、動けない」
あんなものがいるなんて、レフリーは何も言ってなかった。詳細ルールには書いてあるのかもしれないが。
これでは身動きがとれない。階段下から一歩も出ていけない。
「わたしたちが来るとき、悲鳴が聞こえたけど、あれって、羽田くんの?」
ルーカスは言いよどんだ。
「……それが、おれもよう知らんけど、誰かさきに食堂に来とったみたいやな」
「誰だった?」
「知らんて」
「男? 女?」
ルーカスは首をふる。
「その人、襲われたの?」
「たぶん」
襲われたのは誰だろう? さっきから春奈たち三人以外の気配がしない。あるいは、すでに生きていないのかも……。
「どうしよう。鈴」
「とりあえず、わたしは動けるから、タブレット持ってくるよ。ルールブック見てみる」
いったん、鈴が階段をあがっていき、しばらくしてから帰ってきた。
「あるね。こまかいルールのなかに、消灯時間は守り、部屋から出ないでください。出た場合は厳罰に処します——だって」
ルーカスがかわいた声で笑う。
「アホか。厳罰にもほどがあるで」
たしかにそうだ。命がけのゲームの上に、命を奪う罰。学校側はなんとしても、春奈たちを殺したいらしい。
「死神以外にも仕掛けがあるかもね」と、鈴は言う。
「部屋に戻ったほうがよさそう」
「どうやって? あれ、すごく素早かったよ。それに、飛んでるし」
「たぶん、プログラム制御のドローンに布かぶせてるだけだと思うけどね。あのスピードは困るね。そこから逃げだすためには、階段のよこをまわりこまないといけないし」
春奈たちのやりとりを聞いて、ルーカスが言った。
「桜井なら細いし、ここから行けんのちゃう?」
示しているのは、階段と壁のすきまだ。ホールとは反対側の、三人が集まっているほうの壁には、手すりとのあいだに十五センチすきまがある。
「春奈。手すりのぼれる? わたし、ひっぱってあげるよ?」
たしかに、ギリギリで頭が通る。頭さえ通れば、よこむきで移動はできた。手すりが低くなっているところから、どうにかよじのぼる。
「よかった。あがれたよ」
「こんなことになると思わなかったね。羽田くんはどうするの?」
「おれは朝までここにおる。風邪ひくくらいは、しゃーないな」
ルーカスと別れて階段をのぼった。
「鈴。もう疲れたよ」
「しかたないね。今夜は休もう。あんなのいると思わなかったもんね」
でも、収穫はあった。春奈にとってはありすぎの大きな収穫だ。もっとも有力だったルーカスがペア候補から外れた。
「今から布団、部屋まで持ち運ぶのめんどくさいよ。今日はもう鈴の部屋に泊めてもらっていい?」
「とうぶんはいっしょに寝よう。そのかわり、ベッドは一日交代だよ?」
「オッケー」
ヒソヒソ話しながら、廊下を歩いていたときだ。急に頭上でサイレンが鳴った。非常ベルのような。これにはおぼえがある。ゲーム開始のときに寮内に響きわたった波のあるベルだ。
「何、これ?」
「しッ。なんか放送してる」
たしかに、機械音声が告げていた。廊下だからか、声が通りにくい。スピーカーが遠いのだ。
「——が成功しました。よって、明日、八時に朝礼を……また、これより五分間、ナイトメアモードに移行します。ご注意……さい」
ところどころ聞こえないが、だいたいはわかった。
「八時に朝礼だって。成功したって、なんだろ?」
春奈はのんびりしていたが、鈴は緊張している。
「ナイトメアモードって言ったよね? もしかしたら、ヤバイかも。急いで部屋に帰ろう」
「え? うん?」
あわてて廊下を走る。鈴の部屋はこの廊下のつきあたりだ。距離にしたら、あと十五メートル。
何をこんなにあわてているんだろうと思ったものの、やはり鈴は正しかった。エントランスホールのあたりでわめき声が聞こえる。ルーカスのようだ。続いて、走りまわる音。階段をかけあがってくる。
「なんかあったんだ!」
「春奈。わたしたちも危ない!」
ルーカスがあの場所を離れるのは、階段裏が安全ではなくなったからだ。死神がエリアをこえて攻撃してきたとしか考えられない。
つまり、ナイトメアモードとは、死神やその他の仕掛けから、安全圏がなくなるのか?
鈴に手をひかれて走る。あと少しで鈴の部屋だ。もうすぐドアに手が届く。
しかし、そのときだ。
非常階段に続く方向から、アレが現れた。死神の黒い姿——
最初のコメントを投稿しよう!