第十三話 闇のなかの攻防

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第十三話 闇のなかの攻防

 かなり長時間待ったが、死神たちが定位置からいなくなることはなかった。やつらは一晩中、そこを見張っているらしい。 「萌乃はたぶん違う気がするけど、協力するよ。何かわかったら教える。わたしたちも恨む者だから」  鈴は言うが、ほんとにそうだろうか? 美憂の話がほんとなら、鈴は恨まれる者である可能性だってあるはずだ。しかし、春奈が考えているうちに、鈴は続ける。 「それにしても、あの死神、困るね。これじゃ、動けない」  あんなものがいるなんて、レフリーは何も言ってなかった。詳細ルールには書いてあるのかもしれないが。  これでは身動きがとれない。階段下から一歩も出ていけない。 「わたしたちが来るとき、悲鳴が聞こえたけど、あれって、羽田くんの?」  ルーカスは言いよどんだ。 「……それが、おれもよう知らんけど、誰かさきに食堂に来とったみたいやな」 「誰だった?」 「知らんて」 「男? 女?」  ルーカスは首をふる。 「その人、襲われたの?」 「たぶん」  襲われたのは誰だろう? さっきから春奈たち三人以外の気配がしない。あるいは、すでに生きていないのかも……。 「どうしよう。鈴」 「とりあえず、わたしは動けるから、タブレット持ってくるよ。ルールブック見てみる」  いったん、鈴が階段をあがっていき、しばらくしてから帰ってきた。 「あるね。こまかいルールのなかに、消灯時間は守り、部屋から出ないでください。出た場合は厳罰に処します——だって」  ルーカスがかわいた声で笑う。 「アホか。厳罰にもほどがあるで」  たしかにそうだ。命がけのゲームの上に、命を奪う罰。学校側はなんとしても、春奈たちを殺したいらしい。 「死神以外にも仕掛けがあるかもね」と、鈴は言う。 「部屋に戻ったほうがよさそう」 「どうやって? あれ、すごく素早かったよ。それに、飛んでるし」 「たぶん、プログラム制御のドローンに布かぶせてるだけだと思うけどね。あのスピードは困るね。そこから逃げだすためには、階段のよこをまわりこまないといけないし」  春奈たちのやりとりを聞いて、ルーカスが言った。 「桜井なら細いし、ここから行けんのちゃう?」  示しているのは、階段と壁のすきまだ。ホールとは反対側の、三人が集まっているほうの壁には、手すりとのあいだに十五センチすきまがある。 「春奈。手すりのぼれる? わたし、ひっぱってあげるよ?」  たしかに、ギリギリで頭が通る。頭さえ通れば、よこむきで移動はできた。手すりが低くなっているところから、どうにかよじのぼる。 「よかった。あがれたよ」 「こんなことになると思わなかったね。羽田くんはどうするの?」 「おれは朝までここにおる。風邪ひくくらいは、しゃーないな」  ルーカスと別れて階段をのぼった。 「鈴。もう疲れたよ」 「しかたないね。今夜は休もう。あんなのいると思わなかったもんね」  でも、収穫はあった。春奈にとってはありすぎの大きな収穫だ。もっとも有力だったルーカスがペア候補から外れた。 「今から布団、部屋まで持ち運ぶのめんどくさいよ。今日はもう鈴の部屋に泊めてもらっていい?」 「とうぶんはいっしょに寝よう。そのかわり、ベッドは一日交代だよ?」 「オッケー」  ヒソヒソ話しながら、廊下を歩いていたときだ。急に頭上でサイレンが鳴った。非常ベルのような。これにはおぼえがある。ゲーム開始のときに寮内に響きわたった波のあるベルだ。 「何、これ?」 「しッ。なんか放送してる」  たしかに、機械音声が告げていた。廊下だからか、声が通りにくい。スピーカーが遠いのだ。 「——が成功しました。よって、明日、八時に朝礼を……また、これより五分間、ナイトメアモードに移行します。ご注意……さい」  ところどころ聞こえないが、だいたいはわかった。 「八時に朝礼だって。成功したって、なんだろ?」  春奈はのんびりしていたが、鈴は緊張している。 「ナイトメアモードって言ったよね? もしかしたら、ヤバイかも。急いで部屋に帰ろう」 「え? うん?」  あわてて廊下を走る。鈴の部屋はこの廊下のつきあたりだ。距離にしたら、あと十五メートル。  何をこんなにあわてているんだろうと思ったものの、やはり鈴は正しかった。エントランスホールのあたりでわめき声が聞こえる。ルーカスのようだ。続いて、走りまわる音。階段をかけあがってくる。 「なんかあったんだ!」 「春奈。わたしたちも危ない!」  ルーカスがあの場所を離れるのは、階段裏が安全ではなくなったからだ。死神がエリアをこえて攻撃してきたとしか考えられない。  つまり、ナイトメアモードとは、死神やその他の仕掛けから、安全圏がなくなるのか?  鈴に手をひかれて走る。あと少しで鈴の部屋だ。もうすぐドアに手が届く。  しかし、そのときだ。  非常階段に続く方向から、アレが現れた。死神の黒い姿——
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