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第十六話 恥と悲しみの朝礼
それぞれのグループで、遠まきに椅子にすわる。
それでなくても、宇都宮の公開処刑があり、どの顔も重く暗い。これから、また何かが始まる。わざわざ朝礼をひらくというのだから、何もないわけがない。
レフリーがやってきた。今日も顔を隠している。
緊張した生徒をグルリと見まわす。
「全員、そろっているな」
萌乃の死亡は、すでに知っているようだ。
春奈はもしや、彼がやったのではないかと、ルーカスをながめた。ルーカスは昨夜の死神から、なんとか逃げきったようで、これと言ったケガもなく、食堂に来ている。だが、勝ち誇ったようすはない。どちらかといえば落胆している。
やったのは、ルーカスではないのだ。つまり、ルーカスの探しているスウィーツ王女は別にいる。
「まずは粛清による勝利者が一名出た。本来は成功直後にアナウンスがあるのだが、今回は真夜中だったため、遅れての報告になる」
室内がざわめいた。
萌乃が亡くなったことを知らない者たちには寝耳に水だろう。
それに、春奈にとっても衝撃だった。成功者が出るたびに、こうやって知らされるとは思っていなかった。しかも、レフリーは続けて口をひらく。手にはタブレットを持っていて、長文の文書が画面に見えていた。それを読みあげる。
「勝利者、小町絵梨花。貴殿は中学からの親友であった故小柴萌乃がペアであると見ぬき、故人にさきがけてスイッチを作動させることに成功しました。よって、ペアゲーム勝者と認定します。ただし、ゲームを離脱できるのは期限後です」
みんなの目が小町に集中する。中学校からの親友を殺したのだ。よほどの恨みがあったに違いない。そう思ったからだ。
しかし、愛音によれば、萌乃のほうが誰かに裏切られていたらしいのだが?
「故小柴萌乃は小学時代からずっと好きだった少年がいた。二人は大きくなったら結婚しようと約束していた。中学に入って二人は交際を始めた」
急にレフリーは萌乃の過去を話しだす。文書に記されているのだろう。そのとたん、絵梨花がハッとした。さっきまで暗い顔はしつつも、無言でうなだれていたのに。
「やめて……」
春奈は席が近いので、小さくつぶやく絵梨花の声が聞こえる。
「やめて……やめてよ……」
だが、レフリーは聞こえていないのか、淡々と読み進める。いや、意に介していないのだろう。
「が、そのころ小柴の親友だった小町が少年を寝とった」
「やめて! やめてったら!」
「少年は小町に夢中になった。だが、小町は少年を愛しているわけではなかった。ただ、小柴から奪いたかっただけだから。悲嘆した少年は自殺した。これによって小柴は過食症を発症する。よって、小柴は恨む者、小町は恨まれる者としてペアが組まれた」
「イヤーッ!」
両手で頭を押さえ、絵梨花は叫ぶ。みんなの絵梨花を見る目が変わっていた。とくに女子の目は冷たい。
友達の彼氏を遊び半分で寝とって死なせてしまった。しかも、それで萌乃に恨まれている自覚があったので、やられる前に殺した。なんて身勝手だろう。
上目づかいに小町を見ながら、ボソボソささやく声がいくつも重なる。
みんなの軽蔑の眼差しを一身に受けて、小町は席を立ち、かけだしていった。さすがに、いたたまれなかったようだ。
「信じられない。そんな理由で、友達を殺したんだ……」
「あれは逃げたくなるよね。見て。苗花もひいてるよ」
ふだん絵梨花と仲のいい苗花でさえ、日焼けしたおもてに複雑な表情を浮かべている。
鈴は考えこんでいる。
「粛清が成功すると、その理由をみんなの前で公表されるんだ。これって、なにげにキツイかもね。恨まれる者にとっては」
たしかに、そうだ。もしも、春奈が恨む者ではなく、自分の父親が強盗殺人犯だったとしたら、それをクラスの全員に知られるのはツライ。
ここでゲームに勝って生き残ったとしても、そのあと大学四年間も、特別科のメンバーとは顔をあわせる。ずっと、『あいつ、殺人犯の娘だ』という目で見られるのは、できればさけたい。
「小町が……萌乃を……」
愛音はボロボロ涙と鼻水をこぼしてつぶやく。なんとなく、目つきが不穏だ。もともと感情的な子だから、自分を抑えられなくなっている。
鈴が黙って、愛音の背中をさすってあげていた。
「そういえば、小町と井伏くんがボックスに入る入らないでもめてたって話したとき、萌乃のようすが変だったもんね。あれって、小町に自分が狙われてるとわかってたからだったんだ」
たしかに、そうだった。萌乃の態度がおかしいから、信用できないと、鈴と話していたが、じっさいには自分がターゲットにされている恐怖のせいだったのだ。
「それにしても、小町、よく粛清できたよね。死神がいるホール、つっきったのかな?」
春奈がたずねると、鈴は思案がちな顔で答える。
「たぶん、死神が配置される前に食堂にいたんじゃない?」
「死神って何時に出てくるんだろ?」
「十一時十五分にはもういたから、それより前だよね。消灯時間ピッタリかなぁ?」
小町はかなり早い段階から、準備して、ボックスの前で待っていたのかもしれない。いくら自分が死にたくないからと言って、かつての親友をあんなにかんたんに殺せるなんて。小町が萌乃を裏切るのは、これで二度めだ。
「あたし、小町をゆるさないよ」
ギュッとまぶたをとじて、涙をこぼしながら、愛音が決意を秘めた声を出した。
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