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第十七話 ミニゲーム〜宝探し〜
「さて、最後に君たちにとってはいい知らせだ。粛清成功者が出た記念に、これからミニゲームを開催する。本日十時より二時間限定で、寮内に宝を隠しておく。必ず君たちの勝利に役立つだろう。ヒントはそれぞれのタブレットにメールで送っておく。では、解散」
レフリーは言うだけ言って去る。だが、解散と言われたところで、ここは食堂だ。春奈たちはそのまま朝食をとることにした。
「十時から開始でしょ? 急いで食べとかないとね。歯みがきに一回、部屋まで帰らないといけないし。愛音も泣いてないで、食べようよ。元気、出さないと」
鈴が一人で春奈や愛音を盛りあげようとしてくれる。
今朝はホットケーキだ。生クリームやハチミツ、栗ペースト、アイスクリーム、バター、フルーツ、チョコソースなどがトッピングしほうだい。
「甘いもの、萌乃が大好きだったよね」と、愛音はまた泣いたが、食べる手はとまらなかった。
「あたし、絶対、負けない。萌乃のぶんも生きてやる」
何かのスイッチが入ったらしい。
安心したのか、鈴はタブレットをひらいて、片手で入力し始めた。鈴はバターハチミツだ。春奈はバナナチョコソースと生クリーム。
「今、生き残ってるのは、十五人。ただし、宇都宮くんはリタイヤの可能性が高い。小町は勝ちあがりだから、あとは部屋にこもってるだろうし。次のミニゲームには十三人参加かな」
周囲のテーブルには、ほかのメンバーもほぼそろっている。小町だけがいない。あんな話を暴露されたら、とても人前に顔は出せないだろう。
鈴につられて、まわりを見ているうちに、春奈はルーカスが寺門と話しているのを見た。二人とも友達が死んでしまっているので、自然によっていったのかもしれない。
寺門はそのあと、仲のいい苗花のところへ行った。苗花は絵梨花の行動にかなりショックだったようだ。ホットケーキも食べていない。寺門が歩いていくと、泣きながら抱きついていった。やっぱり、つきあってるのかも。
いったん、それぞれの部屋に帰ったあと、十時前に食堂に集合した。鈴がタブレットに送られてきた新規メールをひろげる。
「えーと、説明はさっきレフリーがしてたのといっしょだね。寮内のどこかに宝を隠すから、二時間以内に見つけること。肝心のヒントっていうのは、コレね」
1、空高き水底
2、暗き穴の底
3、天使の息吹
4、くりやの栗
5、花畑のまんなか
6、竜の咆哮
7、モーツァルトの眼差し
8、23番めの世界
9、死人の鏡
10、何も言うことはない
「つまり、十カ所に隠してあるって意味だよね。ここは二人ひと組になって、手わけして探そう」と、鈴は言う。
春奈、鈴、愛音、美憂の四人がいるから、二人ずつなら、それぞれ五カ所を探さないといけない。
すると、ルーカスがくわわってきた。
「おれもそれ、よせてんか」
「そのかわり、自分たちが見つけた宝は、みんなと共有する約束ね。わけられるものなら、こっちも提供するから」
鈴は陰キャの紀野にも誘いをかける。紀野は共闘はいいけど単独行動したいと言う。
「じゃあ、男子は一人で行ってもらうとして……紀野くん。ちょっとめんどうなとこ、二カ所いい? 一番と二番なんだけど」
鈴は場所の見当がついているらしく、相談しあったあと、紀野は一人で去っていった。
「おれ、ぜんぜん、イミフなんやけど」
「羽田くんは七、八。これ、娯楽室だから、すぐわかる。モーツァルトの視線のさきと、世界文学全集の二十三巻を調べて」
一階の共用スペースに、卒業した寮生が寄贈していった本やマンガをおさめた部屋がある。そこにはパソコンも四台あって、DVDやブルーレイディスクを視聴できるようになっていた。なぜか、壁にクラシック音楽家の絵が飾ってある。
鈴の説明を聞いて、ルーカスは走っていった。これは早い者勝ちだ。こっちを見ていた摩耶たちのグループから、紫藤がルーカスを追っていく。
摩耶たちのグループの残りメンバーが厨房に入っていくのを見て、鈴はあせった。
「くりや、とられちゃった。しょうがない。春奈と戸谷さんは花畑と天使、お願い。両方、ホールだから——愛音、行こ」
鈴はそう言い残して走っていった。
「えっ? ホール? ホールなの?」
春奈はまだ理解していなかったが、しょうがないので、エントランスホールまで走った。美憂もあとについてくる。
しかし、そのときには遅かった。蘇芳が壁ぎわに立っている。壁の一面には長い煉瓦風花壇があり、背の高い観葉植物が植えられている。その足元にズラリとサクラソウが咲いていた。
ちょうど、花壇のまんなかから、蘇芳が封筒をとりだしたところだ。
「さき越されちゃった。天使。天使。天使はどこだっけ?」
ホールにありそうな天使。彫像はでも、天秤を持った女神だ。
すると、美憂がささやいた。
「春奈。こっち」
「わかるの?」
春奈たちが走ると、あわてたふうで、蘇芳も走る。女神像のうしろで、バッタリ鉢合わせした。春奈は意識していなかったが、女神の背中に小さい天使がひっついてる。ラッパを吹いているのだが、その顔とラッパのあいだに封筒があった。
「宝だ!」
が、背の高い蘇芳のほうが有利だ。ヒョイと春奈の上から手が伸びてきて、封筒をとりあげる。二つともとられてしまった。
ガッカリしていると、蘇芳が苦笑いしながら、天使の封筒をひらいた。なかを読んでから、さしだしてくる。
「同時だったから、所有権は半々ってことで」
「いいの?」
「内容わかったからいいよ」
封筒ごと渡して、蘇芳は去っていった。
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