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第十九話 カードにこめられた意味
食堂に入ると、摩耶たちのグループ、苗花、寺門がそこにいた。十二時数分前だ。まだ帰っていないのは、鈴と愛音、紀野、蘇芳の四人だ。十二時のチャイムが鳴ると、彼らは戻ってきた。
「どうだった? 鈴」
たずねると、鈴は微妙な顔をする。
「一つは見つかったけど、ほかはダメだったよ」
「おれも一つ」と言ったのは、紀野だ。一と二を探しに行ったはずだが。
「屋上はかんたんだった。言われたとおり、貯水槽の裏に封筒が貼ってあった。けど、地下はさっぱりだ」
春奈には見当もつかなかったが、鈴はあの短時間に推測したのだ。
「二は暗い穴の底だもんね。あれだけじゃわかんないね」
「持ち場が広かった」
「ごめん」
中央の大きなテーブルにより集まって、それぞれの獲得した封筒を出しあう。春奈と美憂、ルーカス、紀野、鈴たち。それぞれが一つずつだ。
『奴隷は女王を憎む』
『作られた顔』
『ハードルが高い友情』
『父と子が同国人とはかぎらない』
しばらく、みんなで、それを見つめた。
「何、これ」
つぶやいたのは愛音だ。
「何が言いたいのかわかんないよ」
「でも、紫藤はこれ見て、自分のとわかったみたいやで」
ルーカスは娯楽室での一件を話す。
みんなが聞き入っているあいだ、春奈はじっと、カードを見つめていた。紀野が持ち帰ってきた四枚めのカードに、神経を逆なでられる。
(これ、もしかして……?)
父と子が同国人とはかぎらない——
もしや、これは春奈へのヒントではないだろうか?
春奈の一家を殺した男は外国人だった。だから、ルーカスが怪しいと思った。が、強盗犯人とその子どもが同じ国の人間ではないとしたら。それはつまり、二人のあいだに血のつながりがなかったということか? たとえば、強盗犯は母親の再婚相手で、子どもは前の夫とのあいだのつれ子なら……。
(羽田くんは恨む者だった。わたしのペアである可能性は低い。じゃあ、やっぱり、わたしの家族を殺した男と、あのときの子どもは義理の親子。だから、わたしのペアは日本国籍で、日本人の姿をしてる)
すごく納得できる答えだ。ペアをしぼりこむには決して充分ではないものの、羽田が容疑者から外れるだけでも大きな一歩ではある。
もしそうなら、ほかの三つも当人同士には、ひとめで自分たちをさしているとわかるのだ。
春奈の胸はドキドキしていた。とすれば、さっきひろったピンクの封筒も本物だろうか? 一つだけ封筒の色も違うし、誰かのイタズラのように思えて、まだ誰にも見せていない。あとで鈴に相談してみようと考えていた。
集まったメンバーは春奈、鈴、愛音、美憂、紀野、ルーカスだ。カードに記された文章がペアリングのヒントらしいとはわかったが、誰もこれが自分のじゃないかとは言いださない。
「ハードルが高い友情ってなんやろな。高嶺の花かな」
「このハードルっていうのが障壁って意味なら、そうかもしれないけど、わたしはもしかしたら、物理的なハードルのことかなって思う。体育で使う本物のハードル。もしそうなら、スポーツに関係する人たちだよ」と、鈴。
苗花か寺門あたりだろうか? こっちのメンバーの内容ではなさそうだ。
すると、春奈たちのようすを見て、蘇芳が近づいてきた。
「おたがいに見せっこしないか?」
そう言って、ポケットから三つの封筒を出す。一人で三つ見つけたのだ。正確には天使のカードをゆずってくれたから、四つ。
「おたがいに三枚ずつだから、公平だと思う」
「こっちは四枚や」
反論するルーカスに、春奈は事情を説明した。
「ほんとは天使が持ってたカードは、蘇芳くんがさきにとったの。だから、残り三つ」
「まあいいんじゃない。こっちのカード、メンバーのじゃなさそうだし」と言ったのは愛音だ。
春奈は迷った。父と子のカードは、たぶん、春奈のだ。でも、それを言うとみんなについていた嘘がバレる。黙っているうちに、じゃあ見せあおうという流れになる。
蘇芳がテーブルに置いた三枚の内容は——
『坂牧小には陰の支配者がいた』
『父はほんとに冤罪か?』
『正義感は過去の贖罪』
ドキンとした。
坂牧小。これはきっと紀野のペアをさしている。陰の支配者というのだから、調べても表立っては出てこない人物かもしれない。
それに、こっちのほうがより春奈にはショッキングだが、父の冤罪。鈴ではないだろうか? やはり、美憂の言うとおり、鈴の父は冤罪ではなかったのでは? ほんとに有罪なら、鈴は恨まれる者だ。それも、相手は美憂になるのでは?
春奈は鈴の顔を見た。鈴は春奈の考えに気づいたのかどうか、別の話をし始める。
「この『正義感は過去の贖罪』って、なんとなくだけど、井伏くんっぽいよね。変な正義感ふりかざしてたもん」
言われてみれば、それはそうかもしれない。しかし、春奈には鈴が自分の事情をごまかすために言ったような気がした。
「たぶん、そうだろう。このなかに、井伏のペアだと思うやついたら、手をあげてくれないか? 井伏ならもう死んでるから、誰もジャマしない」
鈴の言葉を受けて、蘇芳が意見を述べた。が、誰も挙手しない。隠したいのか、ここにはいないのか。
「もしかしたら、井伏くんの相手は板橋くんか、後藤くんだったのかもしれないし」
紀野はまわりのことなど見えていないようだ。じっと一点を見つめている。
「なあ、これ、おれにくれよ。ほかのはどうでもいい」と、坂牧小のカードをとる。持ちぬしの蘇芳も反対しない。
「わたし、摩耶たちに、このカードのこと聞いてみる」
鈴はまだ正義感のカードにこだわっている。それを持って、摩耶たちのほうへ歩きだした。
「まあ、あれなら、誰に見せても問題なさそうやしな。ペアが誰なんかハッキリしたほうが、ほかのもんがやりやすい」と、ルーカスも賛成意見だ。
ところが、鈴が摩耶たちのグループに到達する直前だ。急に一人が大声をあげた。
「おまえか? おまえなんだな?」
紫藤だ。彼は叫ぶと、鈴をつきとばして、中央のボックスにかけこんだ。
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