第二十二話 死人の鏡

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第二十二話 死人の鏡

 寺門が逃亡に失敗したので、場の空気はますます重くなった。どうやっても、この寮から逃げられない。ゲームに勝つことでしか、生きのびられないのだ。  残りは十二人。  しかし、ペアの相手はすでに死亡した人かもしれないため、なかなかしぼりこめない。  春奈は早く鈴と二人で話したいのだが、鈴はとつぜん、こう言いだした。 「じつは、さっきの宝探しゲームで、九番に書いてあった『死人の鏡』っていうの、死亡した参加者の部屋にある鏡まわりじゃないかなって思ってるの。それでさっき、愛音と二人で萌乃の部屋は徹底的に探したんだけど、何も出てこなかった」  なるほど。そう言われると、たしかに各部屋のサニタリールームには鏡がある。裏が戸棚になっていた。  みんな、ピンと来たようだ。あの棚に封筒が入っていたに違いない。 「萌乃は自分の鏡台も持ってたから、そこも調べたんだけどね。だから、ほかの人の部屋だと思う。後藤くん、板橋くん、井伏くん、寺門くん、紫藤くんの部屋の暗証番号、誰か知らない?」  ルーカスがまっさきに手をあげる。 「おれ、後藤と板橋の知っとるで」 「じゃあ、急ごう」 「けど、もうとっくに制限時間すぎとるやろ」 「時間がすぎたら見ちゃいけないとは言われなかったよ。もしも回収前なら、まだ封筒あるんじゃない?」 「よっしゃ。行こか」  二人は走っていった。愛音がついていく。 「春奈。わたしたちも行ってみようよ」  美憂が言うので、疲れていたけど、春奈も立ちあがった。が、紀野と蘇芳はついてこない。 「じゃあ、おれはこれで」  蘇芳はそう言って食堂を出ていった。もともと共闘を約束しているわけではないのでしかたない。  紀野も坂牧小のカードを見てから、ずっと考えこんでいる。動きそうにないので、春奈は美憂と二人で走った。食堂にはもう苗花やかなかもいなくなっている。  誰もいなくなった食堂に紀野だけを残して、春奈たちは二階へ急いだ。 「後藤くんって、たしか二階だったよね?」 「わたしも男子スペースに行くのは初めてだから」  ちょっとはにかむ美憂に微笑して、春奈は階段をあがった。運よく、すぐ近くのドア前で話している鈴たちの姿を見つけた。 「よかった。追いついた」 「ああ、春奈。どうせ。調べるのは鏡の裏だけなんだけどね。男子は自分用の鏡台とか持ってないと思うし」 「オシャレならおっきな姿見もあるんじゃない?」 「後藤くんって、そんな人っぽくなかったよね」  話しているうちに、ルーカスが暗証番号を打つ。  それにしても、みんな、ほかの人の番号を知っているものなのか。 「羽田くん、よく知ってたね」 「そりゃ、まあ、おたがいに信用しとったから。おれの番号も後藤らには教えとったで」 「そうなんだ」  鈴が萌乃の部屋の番号を知ってたのも、本人から聞いたということか。  五人でなかへ入った。が、男子の部屋なので、マンガとゲームソフトばっかりで、オシャレに関するものはあまりない。服だって必要最低限だ。 「鏡。鏡。棚に何か入ってる?」 「ないなぁ。なんもない」  歯ブラシや歯磨き粉など、あたりまえのものしかなかった。もともとないのか、もう回収されたあとなのかもわからないが。 「板橋くんの部屋に行こう」 「よっしゃ」  しかし、板橋の部屋にもこれといったものはない。 「おれ、井伏や紫藤は知らんで」 「紫藤くんが死んだのはミニゲームのあとだから、たぶん除外していいとは思うけどね。井伏くんのグループは寺門くんも亡くなったし、宇都宮くんは話できる状態じゃないだろうし……」  鈴でさえあきらめかけている。すると、うしろから、そっと声がかけられた。 「あの……紫藤くんの暗証番号なら、わたし、知ってるよ」  誰かと思えば、かなかだ。眼差しを伏せて、遠慮がちに肩をすぼめている。摩耶のグループのかなかが一人で行動するのはめずらしい。 「教えてくれるの?」 「そのかわり、お願いがあるの」  それはまあ、そうだ。  クラスの半分が恨む者と恨まれる者でわけられている。つまり、敵と味方でだ。残り十二人。半々で残っているとしたら、六人は敵である。  春奈たちの集団が恨む者でかたまっていると仮定したら、摩耶たちや苗花は恨まれる者である可能性が高い。かなかも例外ではない。  それを承知でとりひきを申しでるのだから、かなか側にも利点があって当然だ。 「お願いって?」  代表して鈴が答える。すっかり鈴がリーダーだ。いつも冷静で頭の回転も早い。女リーダーにふさわしい。それに、そこは女の子なので、口調も優しく聞こえる。かなかもホッとしたように話しだす。 「さっき、宝探しゲームで見つけたカードを見せてほしいの。もしかしたら、わたしのペアがわかるかもしれないし」 「わたしはいいけど、どう思う?」  鈴は同意を求めるように、みんなの顔を見まわす。春奈はうなずいた。とくに問題ないように思える。  いや、四枚めは春奈のカードだ。でも、かなかがあの強盗犯の子どもだとは思えない。というのも、かなかはとても小柄だからだ。写真で見た子どもはもっと背が高かった。だから、かなかになら見せてもかまわないだろう。 「ねぇ、こっちも条件出していいかな?」  春奈はつい、でしゃばってしまった。 「見てもいいけど、その内容を摩耶や海原くんには話さないでほしい」  春奈が恐れたのは海原だ。あの暴力的な海原が、もしもペアなら、どんな方法でジャマしてくるかわからない。 「摩耶たちには話さない」  というので、鈴がポケットから四枚のカードを出した。 『奴隷は女王を憎む』 『作られた顔』 『ハードルが高い友情』 『父と子が同国人とはかぎらない』  かなかは見つめたあと、吐息をついた。 「やっぱり、そうなんだ。そうじゃないかと思ってた」 「このなかで心当たりがあるの?」と、鈴がたずねる。  かなかはうなずいた。そして、一枚のカードを指さす。 「これが、わたしのだよ。それしか考えられない」  かなかが示したのは、『奴隷は女王を憎む』だった。
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