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第二十四話 恨む者、恨まれる者
「鈴? どういうこと?」
「ここでは、ちょっと」
ささやき声ではあったが、もしも誰かに聞かれたらという心配はある。急いで女子スペースへ移動し、春奈の部屋へ入る。三階からなので、こっちのほうが近い。
「ここなら、大丈夫だよね。裏切り者って、どういう意味?」
「まんまだよ。そのまんま。じゃないと、数があわないんだよね」
「数?」
恨む者と恨まれる者は九人ずつ。
春奈、鈴、愛音、紀野、ルーカス、美憂、蘇芳、かなか、死んでしまったけど萌乃が恨む者だとしたら、ちょうど九人だ。数はあっている。
「なんで? 九人なら、ちょうどいいよ?」
「ちょっと待って。今、恨む者、恨まれる者ってハッキリわかってる人を書きだそう」
わざわざ書く必要なんてないのにと、春奈は思った。が、鈴は手帳を出して書きだす。
恨む者
小柴萌乃、紀野廉太、弓本かなか
(綾川鈴、桜井春奈、戸谷美憂、羽田ルーカス)
恨まれる者
小町絵梨花、本波摩耶、井伏、紫藤
?
板橋、寺門、苗花、愛音、蘇芳、海原、宇都宮
「今、こういう状態だよね?」
「愛音や蘇芳くんは恨む者じゃないの?」
「愛音は殺したいほどじゃないって言った。それに、摩耶がどうとか言ってたから、かなかの言うのがほんとなら、愛音は摩耶とペアじゃない。もしかしたら、変な理由で思いもよらない人から恨まれてるかもしれない。蘇芳くんは自分で恨む者だとは言ってなかったよ」
「後藤くんが入ってない」
「後藤くんはサンプルだったから、ペアはいないと思う」
「そっか」
それにしても、鈴はどうして、井伏と紫藤を恨まれる者と確定したのだろうか?
聞くと、こう答えが返ってきた。
「カードを見て隠した紫藤くんは、絶対に恨まれる者。恥ずかしいから隠したんだよ」
「でも、相手がわかってなかったよね? 鈴だと勘違いしてた」
「不特定多数に恨まれる何かをしたのかも。それも自覚ありで」
「ふうん?」
「井伏くんは『正義感は過去の贖罪』ってカードだとしたら、過去に恨まれることをして、本人は悔いてたわけだよね」
井伏は前にも、恨まれる者じゃないかとは話していた。それが確定的になっただけだ。
「でも、数あわなくなる?」
「寺門くん、逃げたよね。恨まれる者だからじゃないかな? 恨む者なら、逃げるくらいなら、粛清すればよかった。相手が死亡者なら、とくに。つまり、寺門くんの相手はまだ生きてる人だったんだよ」
「ハードルがなんとかかんとか」
「ハードルの高い友情ね。スポーツ関係で寺門くんの相手になりそうなの、誰だと思う?」
「羽田くんか、海原くん? 蘇芳くんもけっこう足速い」
「羽田くんはたぶん、本人の言うとおり、恨む者なんだろうね。確証はないけど、嘘つける性格じゃなさそう。だとしたら、蘇芳くんか、海原くん」
「海原くんって、恨む者なんだ? 恨まれてると思ってた。寺門くんは蘇芳くんがペア、かもよ?」
春奈は蘇芳を信じたい。だから、つい、かばってしまう。
「蘇芳くんがそうなら、ハードルのカードは隠しておくはず。自分から、わたしたちと見せあおうなんて言わない」
「まあ、そうかも……」
ということは、寺門の相手は海原が濃厚なわけだ。
鈴は得意げに言う。
「ほらね。一人、数があわなくなるよね? 海原くんが恨む者なら、わたしたちのなかの誰かが、恨まれる者なんだよ」
春奈は急に不安になった。裏切りという前に、単にそれは鈴の勘違いじゃないかと。自分自身が恨まれる者であると、鈴は思っていないから……。
鈴は続ける。
「それに、宇都宮くんや苗花や、板橋くんとか。恨む者だったときは、もっと数が違ってくる」
それで、春奈は思いだした。
「ねえ、鈴。これなんだけど」
ピンクの封筒を鈴に渡す。
「ホールの壁と階段のすきまにあったんだ」
なかのカードを見た鈴は、すっかり考えこんでしまった。ランダムに決められたペアもいる——そうなると、恨む者、恨まれる者のどちらにも入らない参加者もいるわけだ。根本から違ってくる。
「どう思う? 鈴。誰かのイタズラかな?」
「イタズラなら、朝礼のあと用意するしかないよね。宝探しゲームがあるって教えられたの、朝礼のときだし。しかも、そのときはまだ、何が宝物か知らなかった。生徒に偽造する時間は、なかったかな」
「これがほんとなら、ランダムな人は相手がわからないんじゃ?」
「でも、そう考えると、愛音とかのケース、意味がわかる。ランダムだから、本人にも見当がつかない。ランダムペアが一組みしかいないなら、ほかのペアを全部、割りだせば、残りの二人がペアだよ。だけど、二組み以上いたら、それもできない」
「そんなのヒドイよ。ランダムな四人は勘で相手を選ぶしかないよね? 不公平だよ」
「そんなの気にしてくれると思う? 学校はわたしたちを殺したいんだよ。ミニゲームだって、親切に見えて、ほんとはヒントをきっかけに殺しあいが加速してほしいだけだし」
たしかに、寺門や紫藤が自滅したのは、宝探しが発端だ。
「学校側は信用できない。優秀な人を残したいなんて言ってたけど、ほんとは一人でも多く、死なせたいんだよ」
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