怖いのは

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「あのぅ、駅はどちらでしょうか」 1人夜道を歩いていると、背後から突然、女の声がした。 「スマホの電池も切れてしまって」 振り返れば、美しい女性がいた。 二十代前半くらいだろうか。月光に照らされた色白な肌と、風に靡く長い黒髪が清楚な雰囲気を漂わせる。切れ長の瞳に、スッと伸びた鼻筋。女性にしてはやや長身なこともあって、『可愛らしい女の人』というよりも『綺麗な女性』という印象が強い容姿だ。 「道を教えていただけると、助かるのですが」 女性は少し困ったように眉を下げつつも、俺にふんわりと笑いかけてきた。 今までの人生において彼女の「か」の字もない俺は、その妖艶な微笑に不覚にもときめいてしまう。しかし、お綺麗ですね。なんて純粋に褒めた所でナンパ師にしか見えないし、まじまじ見ても失礼だろう。 「……そうですね。地図を書きましょうか」 なにが「そうですね」なのかは全く分からないが、ともかく俺は理性を引き戻してメモ用紙とスマートフォンを取り出した。 「少し待っていてくださいね」 スマートフォンの地図アプリを起動し、目線をメモ帳と往復させながら、さほど迷うこともなく書き写していく。 だが、地図の完成度が五割くらいになったあたりだろうか。 どことなく地図の向こうに違和感を覚えた。 視界の端が、不自然に発光しているような感覚。 外灯の明りにしてはぼんやりしていて、月光にしては明るすぎる、光。 俺はゆっくりと、視線をそちらへ向けた。
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