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終わったと思った。手を後ろ手に縛られ月夜の中、引っ立てられていく。向かう先は処刑場だろう。そう思っていたのに事態はさらに動いた。
「隣国が攻めてきた! 姫の処刑はあとだ! 防衛に向え!」
私を捕らえた兵士たちは私を乱暴に突き放し、国境の橋へと向かう。使用人たちが上手く伝えてくれたのだろう。私はその場に座り込み、月を見上げる。
「終わりなんだろうな。国も私も」
この国に隣国に対抗できるだけの兵力はない。何十年も共存してきた隣国も悪君と悪君の娘を放置はしないだろう。終わりゆく国の喧騒より、私はただ月を見ていたい。泣くのも今夜で終わりだろう。
「姫様!」
どれほど月を見ていたのだろう。いつの間にか喧騒は終わり、屋敷の使用人たちが私を囲んでいた。使用人たちは私を縛っている縄を解く。
「姫様! 迎えに上がりました!」
「父様は捕まったの? 殺されたの?」
「国主は捕まりましたが死んではおりませぬ。それより隣国の王子が姫様に会いたいと」
「斬ってしまえば全て終わるのに……」
「そういうのは良くないね」
そう声をかけてきたのは彼だった。
「僕らは何十年も前に共存を道を選んだはずだ。それに必ず助けるといったろう?」
「私の命なんか……」
「馬鹿言ってんじゃねえよ!」
彼の隣に処刑から救った彼がいる。
「この王子にあんたを殺させないことを俺らが約束させたのに、あんたが死に急ぐな!」
「王子? 王子なの?」
「はい。姫様を攫いに来ました。姫様がこの国の当主となるならば、僕らは誰も殺しません。何なら僕と結婚しますか? 僕はそのつもりであなたと会っていたのですけど」
「でも父様が……」
「現国主は人質として我が国に来て頂きます。人質ってのは言葉のあやでただの客人ですよ。権力を奪うだけで充分でしょう。あなたが国民を救ってきたことに対しての最大限の賛辞です。国を良くするんでしょ?」
涙が溢れてきた。
「まさか……まさか平和が来るなんて……」
「手助けしますよ。それに出来れば僕を婿に迎えて欲しいな。次男坊だから肩身が狭いんですよ」
「ちゃんと口説いてくれるんですね」
「僕は最初からそのつもりだったので」
月が私たちを照らす。今夜、二度目の口づけを。
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