月夜の運命を信じましょう

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月夜の運命を信じましょう

「駄目です!」  父が反逆者だと捕らえてきた数人の前に私は立ちはだかる。目の前には首を落とすための斧を持った兵士が二人。彼らは困った顔をする。 「姫様、そいつらの首を落とさんと俺らが殺されるんです。父君がどんな方か姫様もご存知でしょう?」 「だからといってこの方たちはこの国を憂いて父様に逆らっているのです! この方々は必ず国のために働いてくれる方々です!」  兵士たちはやはり困った顔をするが、その先がどうなるかも分かっている。 「私が彼らを身請けします!」 「はいはい。姫様の勝手にしてくださいよ。父君には見逃したことを伝えないで下さいね」  私はホッと胸を撫で下ろすが、命を救えどもその先まで考えていない。 「ふうん。あんたが噂の姫様かよ」  後ろ手に縛られた男たちの縄を護身用に持っている短剣で切り離す。 「いい子ぶっても俺らが革命起こしたときは、あんたも死ぬんだぞ?」 「覚悟の上です!」  そう。私には未来がない。父様が悪逆の限りを尽くす国の当主である以上、こんなことをしても生き長らえるのは不可能だ。 「あんたが国主なら良かったのにな」 「大それたことを言うものではありません。あなたたちは今日から私の屋敷の使用人です。革命準備でも何でもお好きにやりなさい。私の命を奪う算段もね。ついてきて」  当主が父様だからといって私は城には住んでいない。十五歳の誕生日に城から離れた屋敷が欲しい父様に我儘を言って、城より離れた場所の屋敷で暮らし始めた。もとより残虐な父様のもとにいるのを嫌い、何人かは私の世話をするとこちらについてきてくれた。私が城を離れたのは国の惨状を知るためと、今のように父様が処断しようとする者を助けるためだ。そのために私は国中に間諜を放ち情報を仕入れている。父様が革命により命を落とす未来は火を見るより明らかだ。もちろん私も例外ではないが、国民を苦しめるよりならば誇り高く死んでいきたい。  だが、溜め息は出る。処刑から救った者たちを屋敷に案内する。 「彼らに湯浴みと食事を用意して下さい。私は少し出掛けてきます」  私が死ぬのは運命でしかない。抗う気も毛頭ない。ただ泣きたくなるのは分かっていても逆らえないのだ。  屋敷から離れた国境の川。もうすでに日も暮れている。この川辺で私は一人、泣くのだ。 「どうしてこんなことに……」  死ぬのは怖い。必要だと知っても怖いのだ。 「今日も泣いているのかい?」
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