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泣きに来たとしても最近は一人ではない。もう一月も前だろうか。私がここで泣いていると一人の男性が声をかけてきた。
「君はなぜ泣いているんだい?」
「国を憂えてです……」
「ふうん。か弱い女の子なのにかい?」
「女の子が国を憂えて何がおかしいんですか?」
「いや。ごめんよ。癪に障ったなら謝る。君はどんな国にしたいんだい?」
彼に問われて私は理想の国の話をする。
「皆が幸福に過ごせるように税を使いたい。今は高すぎます。産業にも力を入れて隣国と仲良く共存をしたい。子供たちを取りこぼすことなく、本が読めるような教育をしたい。それから……」
彼は話を遮ることもなく、ただ黙って聞いていた。言うだけ言って私は息を吐く。
「夢物語だけどね」
「分からないじゃないか」
「分かるわ。どう足掻いてもね」
「ふうん。君は毎晩ここに来るのかい? また君の話を聞きたいのだけど」
「勝手にすればいい。私はあなたを縛る権力じゃないもの」
「じゃあ好きにさせてもらう。毎晩通うよ」
それから彼は本当に毎晩通い私に会いに来てくれる。
「泣きたいことばかりよ……」
今、私の屋敷では革命の話がされているだろう。もちろん私を殺す話もしているだろう。
彼は私の横に腰を下ろす。
「好きなだけ泣きなよ。泣けるときに泣かないと人は心を失うから」
ひぐっと声をあげて泣く。彼はただ黙って側にいる。
「あなたは……誰なんでしょうね。私の国じゃ政治の話をすると処罰されるのよ。あなたは橋のこちら側の人? それとも向こう側の人?」
「どっちでもいいだろ? ただ泣きたい女の子を口説きたいだけのどうしようもない男かも知れないだろ?」
「それはそれで構わないけど、あなたに私が口説けると思って?」
「可能性がない訳ではないだろう。それより今夜も聞かせてくれよ。理想の国の話を」
「そうね。冤罪で処刑される人を少なくしたい。そのためなや法を整備したいわ。証拠とかの検証をちゃんとする裁判所とか必要だわ。こんな国見てられないもの」
「君は本当に国のことを考えているんだね。今夜は泣き止んだみたいだし、お暇するよ。明日もまた会おう」
彼は立ち上がる。月夜に照らされた優しい眼差しは私に向けられる。
「ねぇ。私を口説いてくれないの? 連れ去ってはくれないの?」
「駄目だね。君は大切な人だ。だからこそ攫ったりはできないよ。ではまた」
彼は去っていく。その姿を見て私を川をあとにする。彼が誰であるか知ろうとするのは野暮だ。ただ、月夜に照らされて話を聞いてくれるだけでいい。それだけでいいのだ。
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