一つの始まり

1/1
75人が本棚に入れています
本棚に追加
/24ページ

一つの始まり

 うちの隣の隣は奏ちゃんち。  道向かいは尚くんち。  ねんねの頃から家族ぐるみの付き合いで、幼稚園からずっと一緒のクラス。  時には誰かの家で晩御飯を食べ、ある時はみんなでお風呂に入り、お泊まりする。  奏ちゃんはイケメンで、スポーツ万能で女の子にモテるんだって。  尚くんは体は大きいけどおとなしくて、いつも教室の隅っこで編み物をしたりぬいぐるみを作ったりしている。  私は……よくわかんないや。  わかんないけど、二人は私の1番の友達なんだ。  ………… 「それで、相談ってなに?」 「うん…………その、さ……」  とある春の日の午後。  夕方のマクドは下校途中の学生たちで混んでいる。  いつもと変わらない賑やかな風景だ。  そんな中、奥のテーブルの席に座る男女がいた。  大柄な体躯を丸めてもじもじしている短髪の男子……志方幸尚と、ショートボブのほんわかした雰囲気の女子、北森あかり。  二人はこの近くの学園に通う同級生だ。 「尚くん、もしかしてまた誰かに虐められてるの?いいよ、私木刀持ってくる」 「うわああああ待ってあかりちゃん、そうじゃないんだ……」 「あ、そうなんだ。でも、奏ちゃんにも話せない悩みなんでしょ?私、それなりに腕には自信があるけど大人相手は……」 「どうしてそうなっちゃうかなあ……」  そうじゃないんだ、と顔を真っ赤にして俯く幸尚は、しばらく口を開いてはつぐむのを繰り返す。  こうなると30分はかかるのだ、のんびり待つしかないとあかりも慣れた様子でシェイクを啜る。  案の定、30分きっかりたった頃、幸尚は口を開く。 「あかりちゃん…………僕さ……」 「うん」 「…………奏の事が、好きなんだ」 「………………私も奏ちゃん好きよ?」 「そ、そうじゃなくて…………その、つまり、ええと……あかりちゃんが好きなその、びいえる的な……」 「!!」  途端にあかりの目がきらりと光る。  何たってあかりは筋金入りの腐女子なのだ、まさか幼馴染が幼馴染に恋をするだなんて想定外だが、そっち方面の知識はそれはそれは豊富である。 「そっか、奏ちゃんに告白しないの?」 「こっ……!?そそそんな、告白だなんて…………奏は男なんだよ!?しかもイケメンで、女の子にもモテモテで」 「うん、でも奏ちゃんずっとフリーじゃん。尚くんにもチャンスはあると思うけどなあ」 「へっ、てかフリーって……あいつ彼女いなかったっけ」 「あ、自称彼女を名乗ってる女の子は結構いるよ。でも奏ちゃん、そういう女の子だらけでちょっとしんどいって前にこぼしてた」 「そ、そうなんだ…………でも、そんな話をあかりちゃんにはするんだ……もしかして奏はあかりちゃんが」 「ないない、だって奏ちゃん、甘い言葉の一つも私に言った事ないもん!私も奏ちゃんのことは大好きだけど、それは尚くんが大好きなのと一緒だよ。私、恋愛ってよく分かんないし」 「それはそれでどうなの……?」  ま、いいじゃんとあかりはニッコリする。  あかりにとっては、大好きな二人がくっつくかもしれない、腐女子目線でもとても美味しい展開なのだ。これを応援しないなど考えられない。  そう、応援が必要だ。  何たって幸尚は見た目こそ大柄で強面だが、内面は穏やかでそんじょそこらの女子高生顔負けのピュアっぷりなのだ。しかも奏ちゃん……二人の幼馴染である中河内奏と異なり、非常に内向的。告白とかするようなクチじゃない。  ここは一肌脱がねば!とあかりは心の中でそれはそれは燃え上がっていた。  そうと決まれば善は急げ、だ。  あかりはまだ部活中であろう奏にメッセージを送り「私、ちょっと準備があるから!尚くんち、今フィールドワークでお父さんもお母さんもいないよね?晩御飯食べたら尚くんち行くからねえぇぇ…………!」と慌ただしく席を立ってどこかに行ってしまった。 「…………ええと、あかりちゃん……行っちゃった…………ど、どうしよう……」  あかりはいつも、即断即決だ。  ちょっと天然が入っているせいでとんでもないこともよくやらかすが、3人の中で一番頭は切れる。  そんなあかりが協力してくれるのだ、きっと何かいい案を考えてくれたに違いない、と能天気にも幸尚は考えてしまった。  ……数時間後、彼は自分の考えが甘かったことを思い知らされる。  ………… 「てわけで」  何でこうなった。  幸尚はドギマギしながら、家にやってきた二人……あかりと奏にお茶を出す。 「麦茶しかないけど」 「おう、ありがとな尚。いやー今日の部活きつかったから冷てえ麦茶が気持ちいーわ」  冷えた麦茶を一気飲みする奏の喉がごくりとなる。  もうそれだけで心臓がバクバクしてしまう。 「で、あかり、話ってなんだ?」  お茶を飲んで一息ついた奏が、あかりの持ってきた袋に目をやる。 「パジャマパーティでもするのか?俺お菓子持ってこなかったけど」と尋ねる奏にあかりはいきなり爆弾を落とした。 「ううん。あのね、尚くんが奏ちゃんと恋人になりたいっていうから準備してきたの」 「なっ、ちょ、あかりちゃああぁぁん!?」 「…………へ?」  突然の暴露に素っ頓狂な声をあげる幸尚と、目をぱちくりさせる奏。  ややあって奏が「……話がすごく見えねえ」と頭を抱え呆れた様子で呟いた。  自分だって見えない、と幸尚も向かいで全力で頷いている。  いや、いつもの事なのだ。あかりは頭が良くて、ちょっと良すぎて、時々ネジが外れるし話の内容は大体すっ飛ばして結論しか言わない。  幼い頃からこれまで二人して何度も振り回されてきたのだ。もはや突っ込む気すら失せた。 「……尚、説明してくれ。今回はあかり、何で暴走したんだ…………?」 「ぐっ…………うう、そっその…………」  とはいえ、まさかこんな形で奏に告白する形になるだなんて。  あかりちゃん酷いよ、と涙目になりながらも、幸尚はその思いを奏に告げるのだ。 「……という事で…………相談する相手を間違えたかな、僕……」 「それは間違いないな。で、…………そっか。ちなみにいつから……?」 「……え、えっと3年くらいから……」 「マジかよ全然気づかなかった。てかなんか悪いな、そんな好きなのにずっと隠してるの辛かったんじゃね?」 「う……でも、言ったらもう友達じゃいられなくなるから……」 「んな訳ねえじゃん。別に尚が俺のことを好きだろうが、俺は何にも変わんねえよ」 「奏……」 「ただその、尚を恋愛的に好きかって言われたら……よく分かんねえ。考えたこともなかったし」 「そ、そうだよな…………」  しょんぼりする幸尚に「尚」と奏は声をかける。  何だ、と顔を上げた唇にふに、と触れる温かくて柔らかいもの。 「…………んんんん!?」 「ん…………んー、嫌じゃねえな。男同士だから気持ち悪いかなと思ったけど、尚ならなんとも思わねえや」 「そそそそそ、奏っっ!?」 「んーじゃ、ほら、口開けて」 「へっ、ちょんむうぅぅっ!!」 (わわわっ、そっ奏の舌が、うわあああああ!!!)  幸尚は初心である。  当然キスなどした事がない。  なんならディープキスの存在すら知らない。 (あああ、忘れてたよ!!奏はあかりちゃんとは別の意味ですっ飛んでたんだ!!)  奏は難しいことを考えるよりやってみりゃ分かるの脳筋派なのをすっかり失念していた。  そんなことを考え狼狽えている幸尚の口の中を、奏の舌が這い回る。  あの奏の薄い綺麗な唇が触れて、その舌が自分の中にある、それだけで頭がおかしくなりそうだ。 「んっ……ふっ…………っえほっえほっ……」 「尚、キスする時は鼻で息するの」 「う…………ごめん……」 「ん、いいよ、初めてなんだろ?俺がちゃんと教えるから」 「へっ」  唇が離れる。  二人の唇の間に、キラキラした橋がかかる。  ああ、もう心臓が爆発してしまうんじゃないか。  突然の出来事に動揺する幸尚に「意外といけるんじゃねえかな」と奏はこともなげに話す。 「いけ、る……?」 「尚、試してみようぜ。俺、尚なら抱ける」 「え、へっ、ええええええ!?」 「だから、セックスして、どんな気持ちになるか確かめてえ」 「……あのな、奏…………どんだけヤリチンなんだよ、お前……」 「えーだって俺ら、ずーっと一緒じゃんか。今更デートとかまどろっこしくね?いつもと変わんないし」 「そ、それはそうだけど……」 「だから、恋人らしいことをやってみりゃ分かるかなって」  やっぱり脳筋発動じゃないか!と幸尚の脳内で全力のツッコミが入る。  しかも「確かに一理あるよね」とあかりも頷いているし。なんだ一理って、いの字もないだろうが。 「あ、言っとくけど俺童貞だかんな!」 「…………信じられん」 「ひでえ、俺そんなに軽薄に見える?」 「見える」 「ぐっ、傷つくなあ……」 「えー、でも奏ちゃんと寝たって女の子、何人かいるけど」 「待ってくれ、自称彼女どころじゃねーじゃんそれ!!」  あいつらホントどうしてくれようと嘆く奏を、それにさ、と幸尚は見つめる。  もうこうなったら乗りかかった船だ、やってやろうじゃないかと腹を括った幸尚は、実は誰にも止められない事を本人は気づいていない。  それに……譲れないものもある。 (……あ、この瞳は)  瞳の色が変わったのに、奏が気づく。  真剣に自分を見つめる眼差し。  その奥に見えるのは……雄の情欲だ。  そっと下を見れば、その股座は当たり前のようにいきりたっている。 「…………奏、僕が抱きたい」 「あー……そうきたか………………」 「嫌なら……嫌だって言ってくれ。ちゃんと諦めるから」 「いやお前、どうみても諦められそうな状況じゃねえじゃん、このちんこ」 「ぐっ」  いいぜ、と奏はあっさりと下になることを承諾する。  その展開に、幸尚の頭は全くついていっていない、いないが身体はしっかりと反応しているのが何だか情けない。  幸尚だって年頃の男子だ、そういう知識もないわけではない。  ないが (こ、ここから僕、どうすれば……!?)  腹は括ったとはいえ、純情なお年頃だ。当然のようにテンパっていた。 「……でも俺、男同士でどうやってやるか分かんねえ。尻を使うのは知ってるけど」 「う、その、僕も……」 「はいはいはーい!そこは任せて!!」 「「うおっ!」」  いきなり横からあかりの声がして、二人はびくりとする。  そうだった、あかりがいたのをすっかり忘れていた。  途端に人前でとんでもないことをしてしまった事に気づき、さすがの奏も真っ赤になる。  幸尚に至っては「……もうだめ……埋まりたい…………」とベッドに潜り込む始末である。 「あ、あかり、そのさ、この状況だから席を」 「あのね、奏ちゃんとりあえず洗浄してきて!」 「いや、あかり話聞いてる!?って、洗浄?」 「男同士なんだし、先にお尻の中洗わないと大変な事になるんだよ」 「お、おう…………」 「ちゃんとコンドームも買ってきてるから!あ、どっちが攻めかわからなかったから、奏ちゃんと尚くんのサイズ両方買ってるよ!!」 「待ってなんで俺たちのサイズを知ってるんだ!?」 「あかりちゃん、攻めって……びいえる用語は心にくる……せめてタチで」 「いやいやそこ突っ込むポイントじゃねえ!」 「えーだってお風呂で見たことあるし。初めてだし、暴発するとまずいからフツーの厚さにしたからね!」 「あかりはちょっと落ち着け!!あとお風呂で見たのは小学生の頃だろうが!!」  あ、だめだ。こいつ俺らのセックスをサポートする気満々だ。  奏は心の中で盛大なため息をつく。  一方のあかりはこれまでになく生き生きした様子で、持ってきた大きな袋をゴソゴソと掻き回していた。 「えーと、確か…………あ、これだ」 「…………あかり、これは?」  袋からあかりが取り出したのは、大きなイチジク浣腸のような道具である。  何だこれ、とその道具を渡された奏が戸惑う様子を、幸尚もふとん団子の中からそっと眺めている。 「これね、ここが外れて……ここからぬるま湯を入れてね」 「おう」 「で、これお尻用のローション。これを塗ってお尻に入れて、ここを握りつぶせばお湯が出るから」 「…………お、おう?」 「2-3分我慢して、お尻からお湯を出すの。あ、お湯の色が綺麗になるまでやってきてね!」 「な、え、ちょ……これ尻に突っ込むのかよ!」 「大丈夫だよ、そんなに太くないし。第一、これから尚くんのちんちんが奏ちゃんのお尻に入るんだよ?このくらい軽い軽い」 「いやさらっととんでもないこと言ったな!?」  というか、あかりはこの部屋から出て行く気がないのかよ?と尋ねれば「……なんで?」とポカンとした顔で返される始末だ。 「あのなあかり、俺らこれからセックスしようとしてるの」 「うん、でもやり方わかんないんでしょ?私これでも腐女子だし、ちゃんと知ってるよ!道具も買ってきてるし」 「いやそういう問題じゃなくて、待て、道具を買ってきたってどういう事だ?」 「え、さっき尚くんに相談されたから……家に帰って着替えて、そのまま街のアダルトグッズショップに」 「「はああああ!?」」 「あかりちゃん、そんなとこに女の子一人で行くのは危なすぎるよ!!」 「あかりなあ……即断即決はいいけど、お前女の子なの自覚しろよ?そんないかがわしい場所、変な奴に目をつけられたらどうすんだよ!」 「その時は倒せばいいでしょ?」 「「そうじゃないから!!」」  なんてこったい、この自覚なしめ。  確かにあかりの家は居合の道場で5歳の頃から稽古を積んでいるのも知っているし、何なら小学生の時は3人まとめてあかりの母親……師範にお世話になっていたからその腕前もよーく分かっているが、そう言う問題じゃないんだ、と男二人は頭を抱えるのだった。  次からは俺たちがついて行くから、絶対に一人で行くな!と二人がかりで説得し、しぶしぶあかりが承諾したところで「尚、お風呂とトイレ借りる」と奏はその怪しい洗浄ポンプとローションを持って部屋の外に出た。  なんたって小さい頃から何度も遊びに来ているのだ、もはや勝手知ったるである。 「んう…………変な感じ…………」  まさか自分の尻にこんなものを突っ込んで洗う日が来るなんて思いもしなかった。  何度も繰り返しながら、だがそこまで嫌ではない自分に奏は気づいている。 「……尚が、俺を好き、か…………俺、ふつーに女の子が好きなんだけど、尚に抱かれるの嫌じゃねえんだよな…………ま、幼馴染の腐れ縁ならそんなもんか……?」  断じてそんなものではないが、天変地異のようなこの状況に奏も頭のネジが外れてしまったようだ。 「結構キツイな……こりゃ確かに体力のある俺がやったほうがいいよなぁ」とややぐったりしながら部屋に戻る。  と、そこには顔を真っ赤にして俯いた幸尚と、何だかご機嫌なあかりが待っていた。 「ほら、尚くんもシャワー浴びて!だいじょぶ、奏ちゃんには私ちゃんと説明しておくから!」 「う、うん…………はわわ」  奏と入れ違いに風呂場に向かう幸尚は完全にテンパっていて「あかり、一体何を吹き込んだんだ……?」と奏は呆れた様子であかりを見て……その手元にあるものにギョッとした。 「ん?あ、これね。初めてだししっかり慣らさないといけないから色々と」 「いやいや待て、慣らすって!?それを?俺の尻に!!?」 「あ、ちゃんと指で慣らしてからだよ!細身のものからゆっくり慣らせばいけるって店員さんも言ってた」 「まさかの店員にまで相談したのかよ!!」  もうどうしてくれよう、この行動力。  奏は嬉々としてそれぞれの道具の効能?を語るあかりをガックリしながら眺めていた。  いや、あかりなりに幸尚の事を思って行動したのは分かっている。  小さい頃から身体は大きくても気弱な幸尚を、口で守るのは奏の役目、そして身体で守るのはあかりの役目だった。  幸尚をいじめる奴は完膚なきまでに叩きのめす、それが二人の信条で、いつも何かと虐められて泣いてばかりだった幸尚のボディガードのように二人はずっと幸尚と一緒で、それは今も変わらない。  ただ、ちょっとあかりは頭が良すぎておバカなだけなのだ。 「なあ、あかり。一つ確認していいか?」 「ん?なに?」 「…………あかり、俺らのセックス見るつもりなの?」  だから、何となく答えはわかっている。  いるけど聞かずにはいられなかった。  案の定「見るけど」とあっさり返され、だよなあ……と奏はがっくりする。 「だって見ないとアドバイスできないよ?あ、大丈夫!私奏ちゃんと尚くんのちんちんは見慣れてるし!」 「いやそういう問題!?そ、その、俺尻に尚のちんこ突っ込まれて善がってるところをあかりに見られるの?」 「奏ちゃんだし別に問題ないんじゃない?今更恥ずかしいとか」 「いやいや恥ずかしいわ!!」 「えー、まあほら、私のことは壁だと思って」 「思えるか!!」  反対したところで、こうなったあかりが譲ることはない。  なんだかんだ奏も幸尚もあかりには甘くて、頭が上がらないのだ。  まじで恥ずかしくて死にそう……と悶えているところに「そ、奏、大丈夫……?」とシャワーを浴びた幸尚が戻ってきた。  パンツ一枚で、その手芸部とは思えないガッチリとした筋肉質な身体を惜しげもなく披露する。  その中心は天を突いていて、じんわりと先端が濡れていた。  思わずごくり、と喉がなる。 「……尚…………」 「奏、僕、優しくするから…………」 「……おう」  そんな幸尚に当てられたのか、心臓が痛い。  今度は幸尚から降ってきたキスは、どこか優しい甘さを感じさせた。  …………  初めてなのだ、しかも男の体だ。  触れられても少しゾワっとするだけで、気持ちいいとは程遠いが、それでも一生懸命愛撫する幸尚の姿だけでじんわり胸が暖かくなる。 「っ、奏、その……気持ちよくない、か……?」 「んー、まあ初めてだし……でも、尚が一生懸命触れてくれるのは、なんかいいな」 「う……すまない…………」 「謝んなって。男なんだし、やっぱこっちじゃね?」 「…………触っても、いいか?」 「おう」  まだくたりとしている奏の雄にそっと触れると「んっ」と奏の口からため息が漏れた。 「……奏、どこがいい?」 「おま、聞くかよ…………雁首のとこ、弄るのが、ってひゃあああああっ!?」  ぬるりとした温かい感触に包まれる。  驚いて下を見れば、愚息は幸尚の口の中にすっぽり包まれていた。 「ん…………ここ、だな……んむ……」 「ちょ、尚!?おま、そんなとこ、舐めるなって汚いっ」 「んぷ…………奏のだ、汚くなんかない……気持ちいいな、おっきくなってきた」 「んうぅ……言うなよう……」  さすが同じ男だ、良いところを突くのは上手い。  そしてなにより、絵面が凄い。 (尚が、おれのちんこ咥えて……気持ちいい、くぅっ……尚も、なんか気持ちよさそう…………)  だんだん頭が白くなってくる。  気持ちよさに、腰を情けなくカクカクと振ってしまうのに、もう恥ずかしいと思う余裕さえない。 「尚くん、奏ちゃん気持ちよさそうだから会陰も押してみて」 「ん、会陰……?」 「ここ。ゆっくり押し込みながら気持ちよくしてあげて、そしたらこっちも気持ちよくなれるから」  遠くであかりが幸尚に何かを囁いているが、それもよく分からない。 「奏、一度出したほうがいい?」 「んー、むしろこのまま奏ちゃんが我慢できなくなるまで会陰押しながら続けたほうがいいんじゃないかな……後ろで気持ちよくしてあげたいんでしょ?」 「う、うん……奏、辛かったら言って」 「あひっ、ふぅっ、だしたい……」 「もう少し我慢、な」  気持ちいい、出したい、もうそれしか考えられない。  幸尚の太い指がグッと玉の付け根を押していて、だんだんそれもぼんやり気持ちよくなってくる。 「尚、なおぉっ、も、むり、お願い出させて、出させてぇ……!!」 「……うん、いっぱい出して」 「んあああ吸うなあああっ!!!」  いきなり吸いながら口を上下し、さらに尿道までこじ開けられて堪らず奏がその白濁を幸尚の暖かい口の中に吐き出した。  はぁっ、とようやく訪れた快楽にうっとりして、そして幸尚の喉がごくんと上下したのを見て。 「おっ、お前、まさか飲んだ……?」 「うん」 「いやうんじゃねえよ!そんな汚いの吐き出せっ!!お腹壊したらどうすんだよ!!」 「……大丈夫、汚くなんかないよ。だって奏のだし……ふふ、嬉しいなあ……」 「……っもう、お前なぁ……」  話しながらも幸尚の指はぐっ、ぐっと会陰を押し続けている。  そしてそっとその後ろに幸尚の顔が近づいたと思ったら。 「んひっ!?」  洗浄で少し緩んだ蕾を、舌で舐められた。 「なっ、尚ぉ…………」 「……僕、指も太いから……周りからしっかりほぐそうね」 「う、うん……だからって舐めなくたって……」 「舐めさせて。奏のここ、いっぱい愛したいんだ」 「ぐう……なんか変な気分になってくるんだけど……」  ピチャリと音を立てながら、幸尚は丹念に皺を伸ばすように周りを、そして入り口を舐め続ける。  あまりの恥ずかしさに頭が沸騰しそうな奏だったが、やがてじんわりとした気持ちよさがやってくる事に気づいた。 「んっ、ふぅっ…………なに……おされる、の…………なんか、へん…………」 「奏ちゃんのいいとこを外から押してるの。前立腺って言うんだけど」 「ぜんりつ、せん…………んぅ…………」 「男性のセックスはね、そこをお尻の中からおちんちんでゴシゴシして気持ちよくなるんだよ」 「んふぅ……ぁ…………あかり、詳しすぎ……」 「伊達に腐女子やってないからね!ほら、気持ちいいに集中。…………尚くんをいっぱい感じて、気持ちよくなって……」  普通に考えれば、あり得ない状況だ。  幼馴染に尻を舐められ、気持ちよくなり、それを同じく幼馴染に……それも女の子に見られるなんて。  あかりじゃなきゃ俺死んでるわ、と奏は心の中で一人ごちる。  恥ずかしさはあるが、あかりに見られるのは嫌じゃない。  ああ、俺たちほんとサンコイチだよなーなんてぼんやり考えていると「奏、こっち集中」と幸尚の声がかかると共に尻に熱い感触が走った。 「!?な、なっ、なにぃ……?」 「温感ローションだよ。ちゃんとアナル用で乾きにくいのを選んできたから。暖かいほうがいいかなって」 「……あかりの知識は、男顔負けじゃねえか……んっ……」 「…………奏、痛い?」 「ん、いや…………変な、感じだけど、痛くはない……」 「うん……人差し指入ってるんだ。……3本入るまで慣らすから」 「うっそだろ…………これが3本とかマジ入るの……?」 「……入らないと、僕の挿れたら奏が壊れちゃうから。ほら」 「っ、でかくね……?俺の知ってる息子さんじゃねぇ……」  そっと導かれた手が触れたのは、熱くて硬い、幸尚の屹立。  その体躯に相応しい大きさでお腹につくほどいきりたった剛直の先端からは、たらりと雫が溢れていて、どう見てももう限界にしか見えない。  なのに必死で笑顔を作って、大丈夫だと自分を宥めてくれる。  ああそうだ、幸尚はこう言う奴だ。自分のことより俺やあかりが大切で、二人のためなら何だって我慢してしまう。 (我慢、させたくないな)  なんだろう。  もっと乱れてほしい。  もっと……雄の顔をだして、獰猛に貪ってほしい。  奏は自分の気持ちにまだ気づかない。  ただ、辛そうな幸尚の息子を解放してあげたくて。 「……尚、俺も…………尚のちんこ舐める……」 「え」 「……辛いだろ?…………俺、上に乗って舐めるから、出せよ」 「え、ちょ、うわっ……!!」  あっという間に押し倒され、剛直が暖かい粘膜に包まれる。  そして目の前には、愛する人の穴が……急に指を抜かれてちょっと口を開けたまま、所在なさげに震えていて。 「っ、そんな、煽るなよ……!」 「んううっ!!」  再び人差し指を差し込み、穴を広げるようにそっと動かす。  親指で会陰を押し、左手で双球を弄び、舌を這わせると「んああっ」と艶めいた声が奏の口から上がった。 「んっ……気持ちいい……奏も、気持ちいい…………?」 「わかんなっ、でも、声がでちゃううっ、くそっ舐められねえじゃんか……」 「んううっ!?ちょ、そんないきなり吸わないで奏、っでちゃううぅ!!」  ビュルッ、と濃い白濁が奏の喉に叩きつけられる。  青臭く、喉に絡む……臭くて不味くて、なのに幸尚のものだと思うと不思議と飲み込みたくなる。  ああ、尚もこんな気持ちだったのかな、も とぼんやり思っていると、くるりと体勢を変えられた。 「え…………尚……」 「……ごめん、余裕ない……2本挿れるね…………」 「ん、うっ…………」  グチュグチュと聞くに耐えない卑猥な音が上がり続ける。  思ったほど痛くはないが変な感じだな、と耐えていると、いきなり 「ああああっ!?」 「!!」  腰に雷が落ちたような衝撃に、思わず高い声が出てしまった。 「ひ、いまの、なに…………」 「あ、多分それ前立腺。さっきからずーっと会陰押して刺激していたから、ちょっと気持ちよさがわかってきたのかも」 「うそ、だろっ……なんかこれやべえよ」 「大丈夫。尚くん、さっき押したとこわかる?多分少しプクッとしてると思う」 「……んと………………あ、ここ」 「んひいぃぃぃっ!!」  再び走る衝撃に悲鳴をあげれば、もう止まらない。  幸尚の指が、奏の弱いところを撫で、さすり、押し込み、その度に奏の口からは悲鳴が上がった。  だんだんコツが掴めてきたのだろう、幸尚の指がリズミカルに前立腺を押す頃には、奏の悲鳴はどんどん甘くなり、半開きの口からは涎が垂れ、涙が止まらなくなっていた。 「んぁぁ……あぁ……あっあっ…………ああんっ……」 「……奏…………きもち、いいな……」 「あんっ、なおっ、きもちいい、きもちいいっ……やだぁ、これ、気持ちいいけどいけない……辛いぃ…………」 「うん……あかりちゃん、どうしよう…………」 「最初からメスイキは難しいから、奏ちゃんのちんちんも触ってあげるといいよ。慣れたら後ろだけでいけるようになるから」 「わ、わかった……」 「ああっ、はぁっ、なおっ、なおっりょうほう、いぐっ、いぐうううっ……!!」  凄かった。  頭の中が真っ白になって、身体がふわりと浮いたみたいで、自分が全部バラバラになってしまいそうな……感じたこともない気持ちよさだった。  何より出したはずなのに、全然熱が引かない。 「あひ……なにこれぇ…………きもちいい、とまらない……」 「奏ちゃん、それが女の子の気持ちよさだよ」 「おんなのこ……」 「もっともっと気持ちよくなるよ。だってこれから、奏ちゃんは尚くんのおんなのこになるんだから」 「おれ、おんなのこに、なっちゃう…………んあぁ…………」 「力抜けてるから、3本入ったな…………奏、そのまま力抜いてて、気持ちいいとこいっぱい触るから……」  もう、体に力が入らない。  そんな奏を、幸尚は辛抱強くほぐしていく。 「……あかりちゃん…………も、もう大丈夫かな…………ほら指抜いてもぽっかり開いて……ひくひくしてる……」 「うん、いいと思う。……にしても尚くんのちんちんでっかいね……おっきくなったのは初めて見たけど、想像以上に……」 「それは想像しないで欲しかったな……奏、聞こえる?」 「んはっ、はぁっ…………なお……ぁ…………」  熱い、熱い塊が、入り口に添えられる。  先ほどまで幸尚の指をしゃぶっていた下の口は、その熱をよこせとはしたなく幸尚の先端に吸い付いていた。  そんな卑猥にねだられて、健全な若者が耐えられるはずもなく。 「っ、奏、奏っ……!!」 「んぐっ!!んあ、あああああっ!!」  きっと優しくしたかったのだろう、幸尚はそう言う奴だ。  けれどこれは、むしろ欲望に任せて一気に突き込まれて良かったかもしれない。  とんでもない質量が、ずりずりと内壁を擦る。  すっかりぷくりと腫れたしこりを押しつぶしながら入ってくる熱に、目の前に星が散り、一際大きな嬌声があがった。 「はっ、はっ、入った……っ、けどっきついぃ………………いたい…………うぅ……」 「あ…………が………………かは……っ…………」  お互い、あまりの締め付けに、その大きさにまともに息もできない。  なのに。  苦しくて堪らないのに。  痛くて動けないのに。 「……僕…………いま、奏の中にいる……っ!!ううっ、ひぐっ、奏、奏っ、好きだ、大好きだ…………!!」 「……ぐぅ…………泣いてんじゃ、ねぇよ…………すげえわ、中パンパン……俺の中全部、尚になっちまったみてえだわ……」 「っ、煽るな、っ……!!」 「いや煽ってねえし、っておま、うぐっ、これ以上大きくするな…………っ!」  ポロポロと大粒の涙を零すこの熊みたいな男が、可愛くてしょうがない。  愛しているかと言われるとまだよくわからないが、少なくとも俺は尚のちんこを突っ込まれても全く嫌じゃないことはよくわかった。  にしても、この大きさはもはやそれだけで凶器だなと奏は苦笑する。 「で、入ったけど……動けるのか、これ」 「う……動きたい、けど、きつくて痛い…………」 「俺今動かれたら、内臓全部でちまいそうだな……あかり、どうすりゃいいんだこれ」 「んー……馴染むまで二人でイチャイチャすればいいんじゃないかな……力が抜けないと動けないと思うよ」  すごいギチギチだねえ、とあかりは結合部をまじまじと眺めている。  多分これは普通じゃない、普通じゃないが、あかりだから普通かもしれない。ああ、もうあまりの圧迫感に思考なんて碌に回らない。  と、大きな手が頭を撫でる。 「……はっ…………尚………………」 「……ありがとう、奏…………きつい、よな……?」 「すんげえきつい。痛くはねえけど…………も、どうしていいか、わかんねえくらいには……んぅ……」  なあ、キスして。  はっはっと息を荒げながら、奏が口付けをねだる。  そっと唇を重ねれば「そうじゃねえだろ」と言わんばかりに舌で唇をつつかれた。 「ん……んふ…………」 「んっ、んうっ、んん!?ん————っ、んうぅぅっ!!!」  さっきの奏の、気持ちよかったな。  ふと思って同じように奏の口の中を舌でさすれば、途端に奏の閉じた口から喘ぎ声が上がった。  ああ、あれは奏が気持ちいいところだったのかと、幸尚は声が上がったポイントを執拗に愛撫する。  ふっ、とペニスの締め付けが緩くなって、そっと口を離せば、そこには……見たこともない、妖艶な雰囲気を纏った奏が虚な瞳でぼんやり幸尚を眺めていた。 「っ、奏……!」 「んあああっ!!」  思わず、腰が動いてしまう。  そして上がる喘ぎ声に明らかに快楽の色が混じっていることに気づいたら……もう、止まれない。 「奏…………奏……っ、ああっ、夢みたいだ……!奏が、僕を咥えて……鳴いているなんて……っ!」 「んひぃっ、ああっ、これ、なんかへんっ、尚っ俺おかしいいっ!!」 「……中がうねってる…………気持ちいいな、奏……はぁっ、ごめんもう出ちゃう」 「んああっこんな、あひっ、ちょっ尚ちんこ擦るなあぁぁっ!!」 「奏も、気持ちよくなって、ね?」 「んがああああああっ!!!」 「くぅっ……!!」  中に、熱い迸りを感じる。  幸尚の欲望が注がれたのだと思うと、心のどこかがゾクっとして……けれど、決して嫌ではなくて。 「はぁっ、はぁっ、はぁっ…………すげ……男同士のセックス…………やべえわ……」 「はぁぁっ………………たまん、ない…………」 「ひっ!?え、ちょい待ち尚、何でまたおっきく」 「え、な、尚くん……?」 「……奏…………もう一回…………」 「えええいや待て流石に初っ端から抜かずの2回戦とかんああああっ!!」  思いを遂げてよかったよかった、とあかりが頷いたのも束の間、そのまままた腰を押し付け始めた幸尚に流石のあかりも目が点になる。  奏に至ってはそれどころではない。 「ちょ、流石に休憩、しろよっ!!おいっ、尚っ!!」 「はぁ、はぁっ、奏っ、奏っ…………大好き、愛してる……」 「………………そ、奏ちゃん、私スポドリと栄養剤買ってくる……あとお粥かな……」 「ちょっと待ってあかり、それより先に奏を止めろおおぉぉ……!!」 「ごめん奏ちゃん、生きて」 「死ぬっまじで、んひぃぃぃっ!!」 「奏……こっち見て、ほら、キスしよ……」 「んむううううう!!!」  明日は頑張って面倒見るから……ごめんね奏ちゃん、ああなった尚くんは止められないや。  心の中であかりは謝りながら、そそくさと近所のドラッグストアに走るのだった。  ………… 「あれ…………朝、だ…………」 「おう、よ……朝だぞ…………」 「………………ええと、奏、そのっ……」 「……全力で看病しやがれ」 「はいいぃぃっ!!」  奏が愛しくて、可愛くて。  何度注ぎ込んだか、もはや記憶にない。  気がつけば外は明るくなっていて、台所からはいい匂いが漂ってきていた。  そして。  ドロドロに汚れたシーツと、ドロドロになった…………愛しい人。 (…………やって、しまった…………!!)  サーッと幸尚の顔が青くなるその下で、泣き腫らした顔の奏はガラガラの声で「もう、動けねぇ……」と訴えている。 「あわわ、ごめん、ほんとごめん!!」 「いい、から……説教は、元気になってから、な……」 「うわああああ奏死なないでえぇぇ!!」  慌てて奏を風呂に抱っこで連れて行き綺麗に清め、ベッドシーツを取り替えて洗濯機に放り込み、清潔なシーツの上に奏を横たえた。  なるべく中のものは掻き出したつもりだが、きっと腹痛は免れないだろうな、としょんぼりする。  だが奏は腹痛どころでなく、まさに満身創痍だ。  腰は痛いし足は震えて歩けないし、まだ尻には何か挟まっている感じがする。  それに、身体中に散るキスマーク。これ、月曜までに消えなかったら部活どころじゃねえなとぼんやり思う。  全く、まさか奏があんなに絶倫で、ついでに独占欲も強いだなんて思いもしなかった。 「お粥できたよ、奏ちゃん食べられそう?」 「……あかり…………ありがと、尚、起こして食べさせろ……」 「あ、その前にお尻に軟膏塗っておいたほうがいいよ!その、あれだけ酷使されたらきっと腫れてるし……これ、塗り薬買ってきたやつ」 「お、おう……ほんとありがとう、あかり。で、尚?」 「はっ、はいっ!塗らせていただきますうっ!!」  ヒヤリとした軟膏が、ちょっと気持ちいい。 「切れてはなさそう」「でもこれ、めちゃくちゃ腫れてるよね……」と人の尻の合間で会話をするのはやめてほしいが。  幸尚にもたれかかり、後ろから「あーん」と差し出されるスプーンではふはふとお粥を食べる。  疲れた身体に染み渡る優しい味だ。  そう言えばあかりはあれからどうしたのか尋ねれば、買い物から帰った頃にはもう奏は意識朦朧で、幸尚は幸尚でこちらの声が聞こえないくらいセックスにはまりこんでいたから「こりゃだめだ」と諦めてリビングのソファで寝たそうだ。  奏と自分の家には「週末は3人でお泊まりする」と伝え、ついでに奏の着替えまで取ってきているあたり、手際の良さに頭が下がる。 「それで、結局奏ちゃんと尚くんは恋人になるの?」 「…………んー、なんか今までとあんまり変わらなさそうだけどさ……俺、ここまでガツガツ尚に抱かれたのに全然嫌じゃなくて正直自分にびっくりしたんだよな」 「奏……」 「だからさ、恋人お試しって事でいい?」 「う、うんっ!!もちろんだよ!!」 「ただし」  真剣な顔になった奏の口から出たのは 「……セックスは3回戦までにしてくれ、俺が死ぬ」 「ゔっ…………ぜ、善処します……」  己の身を守るための約束だった。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!