第二十二話 湧き上がる感情

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 このまま少女を放っておいたら、きっと後悔する。  不思議とそう思った。 「仕方ねぇ……」  刹那は横向きに倒れている少女の上体を起こし、頭に振動がいかないようにずるずると路地裏へ引き()る。  そして、付近の壁に寄り掛からせる。 「この術、普段使わねぇからな……」  刹那は言いながら少女の衣服を緩めると、右肩を露出させた。 (……うまくいくか)  刹那は少女の右肩に顔をうずめると、皮膚に牙を突き立てた。  刹那の妖術の一つなのか、少女の皮膚に突き立てられた牙から青白い光が流れ出てくる。  それが腹部に辿り着くと、裂けた傷口から流れ出る血が止まった。 (完治とまではいかないな……でも、血は止まったみてぇだな)  止血は成功し、刹那はこれからのことが頭に浮かぶ。  普通なら病院に連れて行こうと考えるが、刹那は少女を見通しのいい場所に連れて行き、誰かに見つけてもらおうと考えていた。  人間に顔を覚えられたくなかったのだ。  例え暗示で記憶を暈せても、陰陽師以外にも掛かりにくい人間がいるのだ。  そうと決まれば行動に移そうとした時、ざり、と何かが擦れる音が聞こえた。 「……?」  その音に刹那は少女の右肩から口を離すと、音のする方へ向く。  そこには、長い黒髪を一つに束ねた少女がいた。  気を失っている少女と同じくらいの年齢で、青ざめた顔で刹那を見ている。
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