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第二十一話 湧き上がる感情
いつも通り下界を満喫した刹那は、数日ぶりに領域へ帰って来た。
玄関の引き戸を開けようとした時、刹那は違和感を覚えて庭先の方に視線を向ける。
「あいつら、いないのか……?」
今は昼の時間帯。
いつもこの時間は、夕凪が紫雨に稽古をつけているはずだが、庭からは竹刀を撃ち合う音と威勢の良い声が聞こえない。
「座学に変更したのか?」
そう思いながら、刹那は玄関に足を踏み入れ、引き戸を閉めた。
靴を脱ぎ、板張りの廊下を歩き出した時、右方から声が聞こえた。
「い、――え……」
「――しな――いいよ」
この声は、夕凪と紫雨だ。
どうやら夕凪の部屋から聞こえる。
「やっぱ変更したんだな……」
いつも通り紫雨は、夕凪から座学を受けていると思った刹那。
このまま夕凪の部屋を通り過ぎて、自分の部屋に向かおうとする。
「刹那は……知っているんですか?」
夕凪の部屋を通り過ぎようとした時、紫雨の口から自分の名前が出て来て、刹那は足を止めた。
(オレ? 何の話をしているんだ……?)
話の内容が気になった刹那は襖の前に立ち、聞き耳を立てる。
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