13人が本棚に入れています
本棚に追加
このまま少女を放っておいたら、きっと後悔する。
不思議とそう思った。
「仕方ねぇ……」
刹那は横向きに倒れている少女の上体を起こし、頭に振動がいかないようにずるずると路地裏へ引き摺る。
そして、付近の壁に寄り掛からせる。
「この術、普段使わねぇからな……」
刹那は言いながら少女の衣服を緩めると、右肩を露出させた。
(……うまくいくか)
刹那は少女の右肩に顔をうずめると、皮膚に牙を突き立てた。
刹那の妖術の一つなのか、少女の皮膚に突き立てられた牙から青白い光が流れ出てくる。
それが腹部に辿り着くと、裂けた傷口から流れ出る血が止まった。
(完治とまではいかないな……でも、血は止まったみてぇだな)
止血は成功し、刹那はこれからのことが頭に浮かぶ。
普通なら病院に連れて行こうと考えるが、刹那は少女を見通しのいい場所に連れて行き、誰かに見つけてもらおうと考えていた。
人間に顔を覚えられたくなかったのだ。
例え暗示で記憶を暈せても、陰陽師以外にも掛かりにくい人間がいるのだ。
そうと決まれば行動に移そうとした時、ざり、と何かが擦れる音が聞こえた。
「……?」
その音に刹那は少女の右肩から口を離すと、音のする方へ向く。
そこには、長い黒髪を一つに束ねた少女がいた。
気を失っている少女と同じくらいの年齢で、青ざめた顔で刹那を見ている。
最初のコメントを投稿しよう!