第二十一話 朧げな記憶

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「おい。これ、どこにあったんだ?」 「交番に届いてたんだよ。名前は知らないけど、女子高生が拾ってくれたみたいだよ」 「ふーん……」 「感謝しなよ。届けてくれた子と俺に」 「お前な……」  刹那はかったるそうに紫雨に近づくと、彼にヘッドロックをかました。 「ほんっと、生意気な口利くようになったな! 引き籠ってた時の方がかわいく思えるわ!」 「む、昔の話しないでよ! てか、痛い!」  あれから幾年が経過し、夕凪のメンタルケアのお陰で紫雨は自傷行為をしなくなり、顔色も良くなっていた。  紫雨は夕凪と行動を共にしてから、おどおどしていた態度がはきはきと物を言うようになり、いつも下を向いていた顔が真っ直ぐ前向きになったのだ。 「先輩であるオレを敬えよな!」  刹那は言いながら、紫雨を乱暴に放す。 「後輩をイビる先輩なんか敬えるわけないだろ!」 「イビってねぇ、躾だ」  刹那は紫雨に構う気をなくしたのか、風呂場に繋がる廊下を歩いて行く。 「おい」  急に刹那は立ち止まり、「ほらよ」と唐突に上着のポケットから取り出した物を空中に投げる。 「おっと」  投げ出された物が紫雨の手の中に届く。  刹那は受け取ったのを確認すると、何も言わずに再び廊下を歩き出す。 「お礼のつもりなのかねぇ……」  紫雨の手の中に包装された飴が転がっていた。  それを見て、紫雨はふっと微苦笑を浮かべるのだった。
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