13人が本棚に入れています
本棚に追加
「おい、テメェ……どこ見て――」
刹那はぶつかって来た人物に文句を言おうとするが、その人物は一目散に走り去った。
「って、おい! 待ちやがれッ!」
ぶつかっておいて謝りもしない人物に怒りを覚え、刹那は追い掛けようとする。
すると、体に違和感を覚え、刹那の踏み出した足が止まる。
「っ⁉︎」
先ほどの人物とぶつかった箇所に視線を落とした途端、刹那は驚愕した。
なぜなら、羽織っている上着に真っ赤な液体が付着していたのだ。
「え……は?」
よく見れば、明らかに血だった。
刹那は一瞬、自分の血かと思ったが、体のどこにも痛みはなかった。
「……?」
この血は一体何なのか思案していると、刹那の鼻に香ばしい匂いがつく。
匂いがする方向に目を向けると、先ほどの人物が通って来た道の狭い路地裏があった。
「……何だ?」
匂いと共に、微かな呻き声が聞こえてくる。
気になった刹那は路地裏に足を踏み入れた。
道を進み続け、刹那の鼻に届いた匂いが濃くなっていく。
「……っ!」
匂いの元に辿り着いた時、刹那は思わず息を呑んだ。
路地裏の出入り口付近で、十六、十七歳くらいの髪の短い少女が倒れていたのだ。
腹部から血を流し、衣服を赤く染めている。
(……まさか)
刹那は自分にぶつかって来た人物を思い出す。
あの異常な慌てからして、少女を刃物で刺したのだろうと思った。
最初のコメントを投稿しよう!