第二十二話 湧き上がる感情

2/5
前へ
/170ページ
次へ
「おい、テメェ……どこ見て――」  刹那はぶつかって来た人物に文句を言おうとするが、その人物は一目散に走り去った。 「って、おい! 待ちやがれッ!」  ぶつかっておいて謝りもしない人物に怒りを覚え、刹那は追い掛けようとする。  すると、体に違和感を覚え、刹那の踏み出した足が止まる。 「っ⁉︎」  先ほどの人物とぶつかった箇所に視線を落とした途端、刹那は驚愕した。  なぜなら、羽織っている上着に真っ赤な液体が付着していたのだ。 「え……は?」  よく見れば、明らかに血だった。  刹那は一瞬、自分の血かと思ったが、体のどこにも痛みはなかった。 「……?」  この血は一体何なのか思案していると、刹那の鼻に香ばしい匂いがつく。  匂いがする方向に目を向けると、先ほどの人物が通って来た道の狭い路地裏があった。 「……何だ?」  匂いと共に、微かな(うめ)き声が聞こえてくる。  気になった刹那は路地裏に足を踏み入れた。  道を進み続け、刹那の鼻に届いた匂いが濃くなっていく。 「……っ!」  匂いの元に辿り着いた時、刹那は思わず息を呑んだ。  路地裏の出入り口付近で、十六、十七歳くらいの髪の短い少女が倒れていたのだ。  腹部から血を流し、衣服を赤く染めている。 (……まさか)  刹那は自分にぶつかって来た人物を思い出す。  あの異常な慌てからして、少女を刃物で刺したのだろうと思った。
/170ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加