13人が本棚に入れています
本棚に追加
第一話 灰色の世界
曇り空の下で広がる廃れた灰色の街。
出入り口である森の境に誰も通らないようにロープが張られており、その前には『立入禁止区域』と看板が立てられている。
その向こうには、屋根や壁が所々剥がれ落ちている廃屋が並んでおり、荒廃した大通りにはゴミや鉄パイプなどが散乱していた。
並んだ廃屋の一つに、人間社会から身を隠すように暮らしている少年。
紫雨がいた。
「ん……」
小さな呻き声を漏らし、紫雨の目が薄らと開く。
罅の入った窓に顔を向け、朝がきたのだと気づいた紫雨は横に寝ていたマットレスから上体を起こす。
「ご飯……」
紫雨はマットレスから足を下ろし、億劫そうに部屋から出る。
玄関の引き戸を開け、廃屋の裏に回ると、澄みきった川が流れている。
紫雨は川岸にしゃがみ、水を掬った両手で歯や顔を洗い流す。
「ふぅ……」
顔を洗ったことで、寝惚け眼だった紫雨の意識が覚醒する。
ゆっくりと立ち上がり、踵を返した紫雨は縁側の方へ向かう。
やがて辿り着くと、そこには紫雨が川で釣った魚が紐で吊るされていた。
「うん……いい具合」
紫雨は言いながら、付近にある戸が壊れた物置から七輪を引っ張り出す。
マッチで着火した七輪に薪を焚べ、紫雨は陰干しした魚を網板に乗せる。
しばらく経つと、干物は程良く焼き上がり、芳ばしい匂いが鼻をつく。
最初のコメントを投稿しよう!