第一話  灰色の世界

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第一話  灰色の世界

 曇り空の下で広がる廃れた灰色の街。  出入り口である森の境に誰も通らないようにロープが張られており、その前には『立入禁止区域』と看板が立てられている。  その向こうには、屋根や壁が所々剥がれ落ちている廃屋が並んでおり、荒廃した大通りにはゴミや鉄パイプなどが散乱していた。  並んだ廃屋の一つに、人間社会から身を隠すように暮らしている少年。  紫雨(しぐれ)がいた。 「ん……」  小さな(うめ)き声を漏らし、紫雨の目が薄らと開く。  (ひび)の入った窓に顔を向け、朝がきたのだと気づいた紫雨は横に寝ていたマットレスから上体を起こす。 「ご飯……」  紫雨はマットレスから足を下ろし、億劫(おっくう)そうに部屋から出る。  玄関の引き戸を開け、廃屋の裏に回ると、澄みきった川が流れている。  紫雨は川岸にしゃがみ、水を(すく)った両手で歯や顔を洗い流す。 「ふぅ……」  顔を洗ったことで、寝惚(ねぼ)(まなこ)だった紫雨の意識が覚醒する。  ゆっくりと立ち上がり、(きびす)を返した紫雨は縁側の方へ向かう。  やがて辿り着くと、そこには紫雨が川で釣った魚が(ひも)で吊るされていた。 「うん……いい具合」  紫雨は言いながら、付近にある戸が壊れた物置から七輪を引っ張り出す。  マッチで着火した七輪に(まき)()べ、紫雨は陰干しした魚を網板に乗せる。  しばらく経つと、干物は程良く焼き上がり、芳ばしい匂いが鼻をつく。
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