第一話  灰色の世界

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「…………」  紫雨は黙々と焼き上がった干物を食べ始める。  上を見上げれば、一羽の(からす)がけたたましく鳴いて飛んでいく。  紫雨はそれを呆然と眺める。  食事を終えれば、町のゴミ置き場から収集した様々なジャンルの小説や絵本、雑誌、漫画を読んで楽しむ。  十分に読書を楽しんだら、川で衣服の洗濯をする。  夜になれば、ドラム缶に溜めた水を沸かし、髪と体を洗う。  そして、眠る。  その繰り返しだった。  ――いつも通りの変わらない生活だ。   ✿ ✿ ✿  その日の夜、紫雨は人通りのない街中を歩いていた。  紫雨は週に一度、廃墟地帯を出て、生活で必要最低限な物を収集している。 「ん?」  粗大ゴミが捨てられるゴミ捨て場に向かっている途中、爪先に何かが当たり、紫雨は足を止める。  視線を下げ、落ちている物が気になって拾ってみると、それは革でできた財布だった。 「……誰かが落としたんだ」  紫雨は身分証を確認しようと、財布の中身を開く。 「……‼︎」  開いてみると、万札と千円札が数枚入っていた。  紫雨から見たら、かなりの大金だ。 (……これだけあれば、当分食事には困らない)  紫雨の脳内に悪魔が(ささや)く。  常に食事が不定期で、紫雨は腹一杯にご飯を食べることを夢見てた。
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