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「…………」
紫雨は黙々と焼き上がった干物を食べ始める。
上を見上げれば、一羽の烏がけたたましく鳴いて飛んでいく。
紫雨はそれを呆然と眺める。
食事を終えれば、町のゴミ置き場から収集した様々なジャンルの小説や絵本、雑誌、漫画を読んで楽しむ。
十分に読書を楽しんだら、川で衣服の洗濯をする。
夜になれば、ドラム缶に溜めた水を沸かし、髪と体を洗う。
そして、眠る。
その繰り返しだった。
――いつも通りの変わらない生活だ。
✿ ✿ ✿
その日の夜、紫雨は人通りのない街中を歩いていた。
紫雨は週に一度、廃墟地帯を出て、生活で必要最低限な物を収集している。
「ん?」
粗大ゴミが捨てられるゴミ捨て場に向かっている途中、爪先に何かが当たり、紫雨は足を止める。
視線を下げ、落ちている物が気になって拾ってみると、それは革でできた財布だった。
「……誰かが落としたんだ」
紫雨は身分証を確認しようと、財布の中身を開く。
「……‼︎」
開いてみると、万札と千円札が数枚入っていた。
紫雨から見たら、かなりの大金だ。
(……これだけあれば、当分食事には困らない)
紫雨の脳内に悪魔が囁く。
常に食事が不定期で、紫雨は腹一杯にご飯を食べることを夢見てた。
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