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ゲームスタート
このゲームを何周かしているうちに、初対面というノーヒント状態で続けるのは流石に不可能だと、みんなも気づき始めたのだろう。しかし、発言することが苦手なシャイなメンバーと、自分のことしか視界に入らない変わり者が集まる状況で、それを誰も口にするものはいない。そして、なんでかは分からないけど、僕に何かを求めるように向けてくる視線。ならば、もうある程度大切なものを失った僕が行くしかないだろうと思い、発言をする。
「流石に初対面でノーヒントというのはきついから、質問の前後にヒントつけて正答率を上げよう」
これならばルールの規定範囲内に収まるぞと、してやったりなと拳を握る僕に、周囲のメンバーがよくやったという表情を向けてくれるのを確認して、一応先ほどの失敗のリカバリーは出来たと安堵する。そして、次は待ちくたびれたぞと、溜めを作りながら立ち上がるソラ君のターンだった。いちいち立ち上がる必要ないんだけどね。
「良かろうヒントくれてやろう。お前たち、ペットといば?と言われた時に、質問の答えを二択に絞るだろう?」
当然のことだ!と言わんばかりの自信満々のソラ君の笑み。でも、これ本当にヒントになってる?まあ、確かにこれは人類史上もっとも多い論争の1つと言っても過言ではない。そう!猫派か、犬派か、だろ。とソラ君に分かってますよと、コクコクと頷くと、当然だという瞳で答えを返される。
「そう、ドラゴン派か、エルフ派か、だ!」
あ、ファンタジーでの話なのね!あと、本当にこれヒントになっているの?全然質問の内容が想像つかないんだけど……。でも、この手の話は僕も大好きだ。あえて答えるのなら、ドラゴン派かな!
「俺様は当然のことながらエルフ派だ。」
「え?ソラ君ならかっこいい方が好きでからっている理由でドラゴン派って、答えると思っていたんだけど……」
僕は疑問をそのままぶつけてつもりだったのだが、ソラ君はキョトンとした顔で答える。
「アサガオ、お前は根本的に間違ってる。」
ヒントの出し方を根本的に間違っている人に言われたくないと、多少イラっと来た僕。
「ペットに求めるのは癒し、つまりかっこいいで選ぶのでのではなく、可愛いで選ばないといけない。」
「じゃあ、なぜ二択の中に、ドラゴンが入ってるんだよ!質問から根本的に間違ってるじゃないか!」
呆れたという思いを顔に出す僕と、話にならないとさらに呆れるソラ君。
「俺様の出しているヒントの意味が分かっていないようだな。つまり、世界の常識から考えたら、二択は一択になるということだ!」
「この二択は絶対に主観の塊だろ。あと、エルフを奴隷にするというのは、少しばかり話が違ってくるから」
この時の僕は周りのみんなが少しづつスキーをし始めていることに少しばかり焦燥感を抱いていたのだろう。早く本題の方に入れてという思いが募っていく。
「俺様はちびドラゴンを飼っているのだが、こいつは猫くらいのサイズ感で可愛いんだぜ!アサガオ、今度見に来るか?」
手で自分の飼っているペットの大きさを表現するソラ君、ほんとだ、人の胸の中に納まりそうだと感心する僕。イヤ、待てよ。
「じゃあ、ドラゴンも可愛い中に分類されるじゃないか!あと、遊びに行っていいの?」
中学校に入ってできた初めての友達に、家に招待されたことを少しばかり嬉しく思ったのは、秘密である。
「いいだろう!俺様のドラゴンの一芸を見せつけてやろう!」
そういって中二病とナルシストが混ざったような決めポーズをするソラ君……の先のスキーをしている人たちを窓越しに見て焦る。そして、僕たちの苦労を知らない先生は涼しい顔で言ってのける。
「これが終わらなかった班はスキーできないかな。そのために二泊三日で取ってるからな」
危ない今は友達が出来たことで喜んでる場合ではない、早急にこのゲームを終わらせなければ、まあいいヒントはたくさんもらった…………。
「ていうかソラ君ドラゴン飼っているじゃんか!何がエルフ派だよ!」
左手を右目にかざして、大げさに顔を上げるソラ君。ヒントは以上にして、もうそろそろ答えが分かっただろ、と言いたげなポーズであることが不思議と理解できた僕。そもそもドラゴンを飼っているってなんだよ!
「ここで俺様がペットにしたいのはどれだ。ドラゴン派、エルフ派、猫派。」
そんなの聞かれるまでもない。だって、ドラゴンを飼っているのだろ!ならば答えはひとつ。
「「「ドラゴン派だ!」」」
ドラゴン派と答える声が重なる、みんなも同じ考えだったようで、満場一致の回答が聞こえてくる。しかし、当の本人のソラ君は途方に暮れたような顔している。
「俺はどう考えても猫派だ!考えたらわかるだろ!」
何言ってんの?どこにもそんな素振りなかったじゃん!ここに誰もが呆れる余り口にすることが出来なかった言葉。僕は訳が分からないと思いつつも、思っていることを質問していく。
「だってさっきドラゴンを飼ってるって言ってたじゃん!ならば、どう考えてもドラゴン派だろ」
「何を言っている?俺様が飼っているのは生物学的には完全に犬だ。どう考えても、この世にドラゴンを飼ってる人間なんて存在しないだろ。」
ソラ君、君は一応現実世界をしっかりと見ている中二病なんだね。
「名前がドラゴンなだけで、れっきとした犬だ。つまり、次に飼いたいのは猫だ!そして、名前はもうエルフと付けると決めてある」
この議論そもそも飼いたい生き物の話じゃなくて、飼っているペットに着けたい名前だったの?そんな馬鹿な…………。
この調子で初日のスキー研修は出来ずに終了した。
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