6.花は根に鳥は古巣に

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 標高が上がるにつれ、霧は晴れはじめた。再び現れた空はだいぶ明るくなっている。 「ここじゃねえな」  スラアが歯噛みする。一か所目の候補は小低木に覆われた傾斜地だが、人がいる気配はなかった。オーレンは向かい合う『二の山』に視線をめぐらせた。 「ここからだと、砦を斜めから狙うことになるな。火球はもっと正面から飛んできたような気がする」 「次行くぞ、次!」  二人は再び走りはじめた。『一の山』は『二の山』より斜面がなだらかだが、途中切り立った崖などに道をふさがれ、何度か迂回を余儀なくされる。戦いの音はまだ聞こえていたが、状況はまったくわからなかった。 「くそっ、どこだ? この辺のはずだが……」  スラアの声にも焦りがにじみはじめる。オーレンが再度方角を確認しようと、顔を上げたときだった。  ふいに皮膚がピリピリするような痛みを感じ、その場の空気が変化する。次の瞬間、炎の矢がすぐ上空を飛び去っていった。周りの木々が熱風になびき、梢が焦げるほどの近さだ。思わず体勢を低くしたオーレンは、同じくかがみこんだスラアと目を見かわした。 (この上だ)  二人は低い姿勢のまま坂を上った。地崩れによるものか、山の斜面にちょっとした窪地ができている。魔導士はそこにいるらしい。  状況を確認するため、二人は窪地を回り込みその上方まで移動した。背の高い草で覆われているのを、スラアが腹ばいになってかき分ける。草の隙間から下を覗き、身振りでオーレンを呼び寄せた。 (……いた)  見下ろす窪地に、メドーの騎士に囲まれて立つ人影があった。  子どものころ農婦のような女魔導士に出会っているにもかかわらず、オーレンは魔導士のイメージとして威厳ある、賢者のような姿を思い描いていた。目の前に立つのは、それとは真反対の人物だった。ぼさぼさに伸び広がった長い髪に、粗末な服の後ろ姿。腰を縛っただけの穀物袋のような服は、風に吹かれると擦り切れた裾がばたばた音を立てた。  魔導士が両腕を上げる。その手も薄汚れ、痩せていた。しかし、ふもとの戦場を攻撃しているのだろうか。メドーの騎士たちまで巻き込んでしまいそうなものだが……。オーレンは魔導士の向かう先に目をやり、思わず声を出しそうになった。  『二の山』の砦は、ここからほぼ正面に見えている。その崩れた屋上に、白くひらめくものがあった。はっきり見えなくとも、オーレンにはそれが青鳥騎士団の団旗であるとわかった。  仲間が砦に戻り、あの旗を掲げているのだ。おそらくはメドーを挑発し、魔導士に攻撃させるため。そしてオーレンたちに魔導士の位置を特定させるために。
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