6.花は根に鳥は古巣に

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 角笛の合図を受けてからしばらく経つ。敵も味方も、魔導士の攻撃がはじまらないことにそろそろ気づいたはずだ。いつ敵に出くわしてしまうかわからない状況だが、オーレンは最短経路を選択した。担がれても悪態すらつかないスラアの具合が心配だった。  さらに山を下ると、ひんやりと湿った空気が肌に触れる。ふもとの方にはまだ霧が残っているらしい。濡れて足もとの悪い山道を、オーレンはひたすらに進んだ。身長はほぼ同じだが筋肉のついたスラアの体はずっしり重い。さらには、一歩踏み出すごとに体から力が抜けていくような感覚があった。息苦しさに目もとがかすみ、駆け足がいつの間にか歩み足になる。  そうして進み続けていたとき、離れた場所で人の声が聞こえたような気がした。思わず立ち止まると、急にがくりと両足がくず折れた。必死にこらえようとしたが、一度抜けた力が戻ってこない。  枯れ葉の降り積もる林の中で、オーレンは膝をついた。衝撃で呻くスラアをできるだけゆっくり下ろし、落ち葉の上にうつぶせに横たえる。自分はそのまま這っていき、近くの木にもたれかかった。  そこでようやく、オーレンは自らの状態に向き合った。先ほどから痛む腹に、矢が刺さっている。飛び出して行ったときに射られたのだ。いつもは鎧で守られているため油断していたのだろう。急所は外れているようだが、出血が止まらなかった。 「……るぎ……おれの剣」  寝転がったまま、スラアが声を上げる。久しぶりに口をきいたと思ったらそんなことを言うので、オーレンは呆れるよりも感心した。 「ここにある。ほら」  鞘ごと手もとに置いてやると、スラアは深く息を吐いた。発熱しているのかびっしり汗をかき、唇が青ざめて震えている。オーレンは上着を脱いでかけようとしたが、スラアはわずかに首を振った。 「もう、いい……置いてけ」 「心配するな。もうすぐ『一の山』を出るから」 「心配、じゃない。おれは、戦士として死ぬ……」  オーレンは、いつか練兵場でスラアと話したことを思い出した。アヤラの戦士として、戦って死にたい。確かにスラアはそう言ったのだ。だが。 「まだだ。乾いた砂の地に埋められたいんだろう? こんな湿っぽいところで死ぬな」 「……くそ、置いてけって……。てめえが死んだら、青鳥……」 「青鳥は機能停止するだろうな。団長も副団長も死んでしまったら」  オーレンは笑った。笑うと腹が痛かった。 「でも誰も困らないさ。だって青鳥だぞ、あの落ちこぼれ集団の。ふふふ……我ら青鳥騎士団は、王国軍最弱……!」  オーレンの軽口に、スラアは「は……」と言ったきりだった。笑ったのか呆れたのかもわからない。それきり二人は黙りこくった。
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