6.花は根に鳥は古巣に

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 人の声が聞こえたと思ったのは気のせいではなかった。争うような叫び声と金属のこすれ合う音が、だんだんと近づいてくる。王国の騎士たちは、人数の不利にもかかわらず再び攻撃を仕掛けているようだ。それが自分たちを逃がすためだとすれば、逃げなければならない。オーレンはふらつく体を起こし、再びスラアを担ごうとした。 「何者!」  すぐ近くから声がしたかと思うと、木々の間から三人の騎士が現れた。皆、メドーの白い鎧を身に着けている。騎士たちはオーレンと、横たわるスラアを見て剣を構えた。 「貴様ら、間者か」  問いには答えず、オーレンは剣を抜き前に出た。背後では、スラアが起き上がろうとしてもがく気配を感じる。こんなときなのに笑ってしまった。 ――お前は、どんな苦難にも耐えられるこころの持ち主となるだろう。  ふいに、かつての魔導士の言葉が頭に浮かぶ。祝福と言っていたが、思い返せば呪いとも取れる言葉だ。どうせなら「どんな苦難にも耐えられる」のではなく「どんな苦難も避けられる」と言ってほしかった。  だがそれでは、オーレン自身も青鳥騎士団の仲間たちも、今のようではなかったのだろう。  オーレンは剣を構えた。  三人の騎士が斬りかかってきた。オーレンはそのうち一人を目がけて突っ込み、腕を斬った。 「うわっ」  籠手(こて)の上部を狙った攻撃はうまく肉を捉え、相手が剣を取り落とす。そのまま二人目に向き直ると攻撃をかいくぐって間合いを詰め、渾身の力で喉を突いた。オーレンの剣はかたびらに覆われた相手の首の付け根に深く食い込み、男が倒れる。だが反動でオーレンの腹にも激痛が走った。 「……!」  追撃できず、たまらず後ずさる。体じゅうの血の気が引き、目の前が激しく点滅をはじめた。倒れそうになったオーレンは剣を地につき、体を支えた。三人目の騎士が剣を構える。先ほど腕を斬った騎士も片手に剣を持ち替えて立ち上がると、怒りの声を上げて斬りかかってきた。剣はもう持ち上がらない。オーレンはとっさに足を出し、体で食い止めようとした。  だが相手は、急に足をもつれさせたかと思うと地面に倒れ込んだ。 「なんだ?」仲間の騎士が声をかけるが、男はぴくりとも動かない。その首すじにナイフが突き立っていた。 「団長!」  山中に響いた声を、オーレンは幻聴だと思った。本当の自分はすでに斬り倒され、いまわの際に幻想を見ているのだと。  だが林の中から飛び出し、オーレンとメドーの騎士との間に立ちはだかったその人物は、幻想というにはあまりにも生き生きしていた。 「……ハイト?」
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