6.花は根に鳥は古巣に

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 二人は『一の山』との境を流れる谷川を越え、『二の山』に入った。あたりにメドー軍の影はない。どうやら、魔導士の死亡を機に押し返すことができたようだ。 「団長はここでお待ちください。私は少し急ぎます」 「わかった」  オーレンがうなずくと、ハイトは静かに、だが力強く微笑んだ。 「団長。帰りましょうね、青鳥に。私もマルッキ殿も、スラア殿も、必ず戻ります。皆、あそこが居場所ですから」  ハイトは駆け出した。男ひとり担いでいるとは思えない軽快さで斜面を上っていく。オーレンはその背中が見えなくなるまで見送ると、息を吐いて座りこんだ。  霧の晴れた林に、梢の間から日の光がまだらに差し込んでくる。オーレンはしばらく木にもたれてじっとしていたが、明るいさえずりを聞いて頭を上げた。小さく区切られた青い空を、もっと小さな鳥が飛んでいく。 「……帰るか」  木の幹につかまって立ち上がると、オーレンは山を登りはじめた。『二の山』の険しい斜面に押し戻されそうになりながら、ゆっくり一歩ずつ足を進める。腹の傷が熱を持ってうずいたが、歩みを止める気にはならなかった。  やがて視線の先に、ほとんど残骸になった砦が見えはじめた。その崩れた天辺には、王国の金色の旗がかかげられている。そこから少し離れたところで、一回り小さな旗が風になびいていた。はっきりとは見えないが、白雲のような織地の中では今も五羽の青い鳥が羽ばたいているはずだ。 「団長?」  オーレンが旗を見つめていると、ふいに斜面の上から声がかかった。駆け下りているのか滑り落ちているのかわからないような恰好で、少年が下りてくる。多少の切り傷や擦り傷が見られるものの、ピンピンしたようすのベルにオーレンはほっとした。一方のベルはオーレンの腹から突き出した矢軸をまじまじと見た後、周囲に向かって大声を上げた。 「団長、いました! こっちにいたーっ!」  そのとたん山のあちこちから、たくさんの聞き覚えのある声が返ってきた。 「そっち? なんで?」 「なんで移動してんだよ」 「ハイトさんの言うこと聞けよ」 「ニル、ふん縛れ! 動かすな!」 「でもよかった……」  それぞれ好き勝手なことを言いながら、迎えに来た団員たちの声が近づいてくる。オーレンは駆け寄ってきたベルの肩を借りて、再び坂を上りはじめた。 終わり
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